論文の「引用」を甘く見てはいけない

修士論文を書く際に、参考にした文献や裁判例を本文で引用し、巻末では文献リストに表記します。(後者は絶対ではありませんが、わかりやすいため推奨します。)

私のいたゼミでは、内容は当然のこと、引用と「てにをは」をこれでもかというくらいに重要視していました。
そこで今回は、引用方法について触れていきたいと思っています。

なお、東亜大学大学院の人たちは、入学式に引用に関する冊子が配られていて、それに基づいて書けば問題ありません、と結論は簡単。
・・・ではあるのですが 冊子通りやれば大丈夫なのですが、その通りに書いたつもりで正しく書けていないことが度々あります。

実際に一部のゼミでは指導の重要度が低いのか、間違えた引用をしている人も多く、後述の通り、国税審議会に提出したあとにリスクを高めることとなるため、厳密に書くよう心がけるべきです。

ちなみに、私も慣れるまで指導教授にさんざん注意されました。

国税審議会での審査

 文献の引用について、大先生(主査の先生)がいうには、

「良い論文かどうかは、目次と引用をみればある程度わかる。」

ということ。

大先生はこう言っていたものの、私は当時「いやいや、テーマ・題材とか研究の中身とかのが重要じゃないか。」と思っていました。
しかしながら卒業してみて、引用の重要性について理解しました。

おそらく、大先生の言葉を若干換えて表現すると、

「良くない(酷くいえばダメな)論文かどうかは、
 目次と引用をみればある程度わかる。」

と言いたかったのかと思います。

結局、良い論文は体裁「も」しっかりしている。
逆に良くなる論文は、体裁からしていい加減ということなのだと思っています。

どこまで本当かは、国税審議会の審査官の先生方にならないとわかりませんが、大量の論文を裁く際にまず、引用と目次をみて、

「この論文は、通過するくらいの程度の力量はあるな。」
「この論文は若干不安だ。じっくり読んで認定するか判断しよう。」

と初期の判断を下すようですね。

例えるならば、就職の面接でしっかりと髪をまとめて、クリーニングできれいになったスーツを着てきた青年が来たか、髪の毛ボサボサ、ヨレヨレのスーツを着てきた青年が来たかで、面接官の「第一印象」に影響及ぼすものになるのかと思います。

なお、大先生ではなく指導教官の先生に、私の論文作成で一番影響を受けたものの引用があまり良くなかったので、「中身はともかく、引用が悪いから真似して引用しないように」と仰っていたのを覚えています。

書き方について

2016年(平成28年)4月入学の人は、入学式に青い冊子「修士論文の作成にあたって」をもらったかと思います。恐らく先輩方も、後に入学された方も持っているかと思います。

若干、解説ページで異なりますが、参考になれば幸いです。なお、引用方法が複数ある場合もありますが、一度Aの方法で論文を書き出したら、Aの方法で統一することです。

なお、1年生などの修士論文とは無関係のレポート作成の時点で、引用をしっかりできていると加点材料になるので、1年生から練習しておくと良いと思います。(一部のレポートでは字数の関係できれいに引用しづらいものもありましたが・・・。)

基本的な書き方

個別で書いて行こうと思いましたが、東亜の方以外でも法学論文を書く際に配られていると思いますので基本的な部分と、気をつけるべきことを中心に書いていこうと思います。

雑誌論文

雑誌論文は、研究分野の第一人者が書いていて参考になるものが多く、一番引用することになるかと思います。

   執筆者名「論文名」雑誌名 号 頁(出版年)
又は、執筆者名「論文名」雑誌名 号(出版年) 頁

例:玉國文敏「損害賠償金課税の一側面」税研180号20頁(2015)

単行本

他にも編著書、翻訳書等は、主たるもののみあげておきます。
(転記しながら、自分の事例を挙げているだけなので。)

・単独著書の場合
   執筆者名『書名』 頁(発行所、版表示、発行年)
又は、執筆者名『書名』(発行所、版表示、発行年) 頁

例:金子宏『租税法』189頁(弘文堂、22版、2017)

単行本の場合は、「「」(鍵括弧)」ではなく「『』(二重鍵括弧)」です。

・共著書の場合
共著者名『書名』頁(発行所、発行年)

例:山田卓生=河内宏=安永正昭=松久三四彦『民法(1)総則』17頁(有斐閣、第3版、2005年)

共著者は「=(イコール)」で結ぶつくりになります。

裁判例

法学論文なので、多くの裁判例を引用することがあります。

例:最判平成16年11月2日判時1883号43頁

最高裁平成16年11月2日判決判時1883号43頁と表記することも可能ですが、基本的には例示したもののとおりになります。(こちらで引用したら必ず統一すること。)地裁判決なら地判、決定ならば、最決、など表記されます。

インターネット等文献によらないもの

インターネット等の文献も引用することがあります。
後述しますが、基本的には文献を優先し、インターネットしかない時に限り引用することになります。これは、リンク切れなどにより引用した資料を読めなくなる可能性も想定されるためです。

例:法律編集者懇話会,「法律文献等の出典の表示方法[2014年版]」,法教育支援センター,http://www.houkyouikushien.or.jp/katsudo/pdf/houritubunken2014a.pdf,(2014.6.1)

気をつけるべきこと

引用すべき文献の優先順位

論文作成の際に複数の媒体から文献を収集することになります。
複数の媒体に出展している文献がある場合、優先すべき媒体があります。

書籍とインターネットなら書籍を優先します。理由は上述したとおり。
インターネットしかない場合に限り引用することになります。書籍は絶版しても、基本的には国会図書館で入手可能です。

前掲注について

自分の論文内で、同じ論文を複数引用することがあります。
この際に、いわゆる「前掲注」の使い方。

  著者名・前掲注(最初に引用した脚注番号) 頁

例:金子・前掲注(42)1頁

前の引用と離れている時は、再度引用しなおすことがベターという解説をするページなどもありましたが、修士論文上は重複したら前掲注を使って問題ないと思われます。

なお、作成時の注意としては、執筆中は脚注番号がずれることがあり、連動して直しづらい項目なので、完成直前に前掲注に変換するのが無難です。
国税審議会で前掲注の場所がずれていることを良しとするとは思えません。

間違いやすいところ

余計なものをつけない

個人的に見やすいなどの理由で、
「:(コロン)」、「;(セミコロン)」、「『』(二重鍵括弧)」、「 (スペース)」など、
余計なものをつけてはいけません。
(スペースを入れて注意されたのを思い出します。)

「、(点)」か「,(カンマ)」か

「、(点)」か「,(カンマ)」かについては、指導教授にも聞きましたが、
どちらかに統一する必要があります。私は「、(点)」で統一しました。

「頁」か「ページ」か

「頁」を、「ページ」・「P」とは書きません。

どのページを引用するか

引用した参考文献の最初のページを掲載するか、引用した内容のあるページを掲載するか、「参考文献の最初のページで良い」ようです。

「厳密に引用するならば、内容の載っているページを掲載する。
 しかしながら、引用した文献が載っているページなので問題ない。」
とのこと。当然、内容のあるページにした場合は他の引用も統一しましょう。

その他の体裁は教授の方針に従う

自分の場合、ある裁判例を多数引用するようなケースにあたりました。
指導教授の見解にもよるかと思いますが、「どのページを引用するか」に記載した「最初のページ」ではなく「引用した内容のページ」を掲載するのが良いと指導を受けました。

「同一の裁判例を多数引用する故に、どの部分を示しているか分からないとあまり意味をなさないから」とのこと。

このような特殊引用は、指導教授に状況を説明した上で相談するとよいかと思います。

略語・略称及び法律編集者懇話会

法律論文を読む際に「ジュリ」とか、「判タ」とかという単語が書かれていることを見たことがあるかと思います。論文を書き始めた人はすぐわかるかと思いますが、「ジュリ」はジュリスト、「判タ」は判例タイムズの略称です。

これらの略号はどのように決まっているかというと、法律関係の雑誌・書籍等の出版に携わる編集者で組織する「法律編集者懇話会」というものがあり、出典の表示方法につき共通の方式を定めています。

最新版は2014年(平成26年)6月に出ています。

NPO法人法教育支援センター 

法律名の略語(P15)、文献の略称(P24)についても載っているので参考にしてください。

このブログを書くために「懇話会」の資料を初めてじっくり読んだのですが(略称などはプリントアウトしていました)、東亜大学大学院に提供していただいた「マニュアル」についても、こちらの「懇話会」の資料を基に、引用方法の重要箇所を抽出して書いているように思います。(恐らく書き方が似ているため原著。)

よって、東亜大学大学院でない方も同レベルの資料を読むことは可能です。
不明な点は、こちらのPDFを読んでみるとよいでしょう。

参考文献リスト

修士論文を作成する上で、巻末に参考文献リストを作ることになるかと思います。参考文献は、基本的に、これらの引用した文献を並べることになります。

文献は、種別ごとに整理して、

1.書籍、2.論文、3.判例評釈、4.裁判例の順に整理して並べると良いと思います。

種別で分けた文献は、「出版日」又は「あいうえお順」が無難です。
「参考にした重要度順」という話もありましたが、書く側と読む側と感性が異なるので、雑然と並んでるようにしか見えないのでやめた方が良いと思われます。

これらは、論文の最終盤の頃に並べ替える方法もありますが、そんなに手間もかからないため、初期から気を配ったほうが、先生の印象も良いと思われます。

その他

最新版を使う

意外と放置されてしまっている内容です。
自分の必要な情報は最新の版でなくても揃うことが多いことも理由の一つです。

論文執筆当初は、入手困難な資料など見つけられる書籍が古い書籍だったりすることもあり、最新版に揃っていないこともあります。ですが、最終的に完成論文で体裁を整える必要があります(絶版本は引用文献の原著のコピーをもらう必要があります)。

わたしの場合、金子先生の租税法第22版がでているのに、その直後の引用で第21版(1年生の頃の最新版)を使っていたため、軽く注意されました。

この「租税法」、第21版と第22版での違いが単にページ変更だけでした。

結局、古い書籍を使った内容だと、研究に対する向き合い方が甘いと思われるのか、良くないものと判断されます。したがって、最新版を使うように気をつけましょう。

ページだけ情報収集するために、買うのもコスト面から厳しいと思います。
図書館で処理してしまってもいいかもしれません。私は買いましたが。

私の場合、ある民法の書籍で改訂版がでていたのですが、改訂前の書籍なら、おいてある図書館がいくつもあったのですが、多少古い書籍であったため、周りの大学図書館などにもなく、都立図書館までコピーしに向かった思い出があります。

孫引き禁止

言わずもがなの禁じ手、孫引きはやめましょう。
恐らくいろいろな先生から言われると思います。

A先生の単行本でB先生の意見を引用していたときは、必ずB先生の本も読み、その意見を引用するようにしましょう。ただ、原著にあたりづらいものもあります。たとえば、米国の裁判例などを引用した論文を読んだときなど、場合に応じて事情を説明した上で先生に相談すると良いと思います。

その他気をつけるべきこと

内容が原文と違う

第一法規出版などオンライン上で法文や文献を閲覧できるツールが東亜大学大学院では提供されていました。裁判例や法文検索もさることながら、関連事件や法文、裁判例の重要度など分類されてて大変便利なツールです。(他大学でどういうツールを利用しているか不明ですが、似たツールが提供されているかと思います。)

しかし、このツールも完全ではありません。

例えば、裁判例が原著と異なることがある(誤字等による)ため、そのまま引用すると間違ったものになること、致命的ではないものの孫引きの指摘原因となります。絶対原文を手に入れましょう。

参考文献を最終的に入手するリスク

論文作成中に、第一法規の情報に頼って、裁判例だけは判例評釈などの雑誌のコピーを取らずに進めていたことがあります。(今考えるとまずい話ですが。)
これは絶対にやめましょう。一時的に資料を入手したとしても、「租税資料館」や「国会図書館」(わたしは広尾にある「都立中央図書館」も使いました。)のコピーを利用する際に収集しておきましょう。

 私の場合、最終盤に一冊、やむなく第一法規から閲覧していた文献があり、論文の補正で時間がない中、都立図書館に行き、原著を入手した覚えがあります。

税大論叢について

税法論文を書く方は、テーマ探しから公聴会までで過半数くらいの方が見ることになるだろう税大論叢。国税庁のホームページで閲覧可能です。

これらの税大論叢はインターネットで入手可能ですが、雑誌になっているため、雑誌論文として引用しましょう。

教授ごとのこだわり

わたしのゼミでは、担当教官として色々ご教授いただいた先生が、どのように引用をすべきか、かなり早い段階で指導をしてくれました。(担当が決まった翌週くらい)

一応、各校、各ゼミの先生により、引用の仕方に多少のこだわり(クセ)があると思うので、担当教官の先生(その後の指導で主任教授の先生)に相談しながら書いていくと良いと思います。

最後に

思うに、我々社会人大学生が作成する修士論文は、極々わずかな大学院生が書くハイレベルな論文を除き、修士論文のレベルでセンセーショナルな指摘や発見がある論文は稀かと思います。

社会人として仕事をしつつ、たとえば、おこがましくも金子先生に「これは新たな発見ですね。」と唸らせるような論文を、1年数ヶ月程度で書けるとは思えないのです。

これが仮に、博士過程の税法3科目免除ならば内容も深く審査されることかと思います。一方で、われわれが死ぬ気で仕上げたとしても、修士論文の質には、ある程度の限界があると国税審議会も判断しているのだと思います。

そうすると通っている(と思しき)論文は、どこで判断されているのかというと、「基本を押さえ、体裁がしっかりしているもの」と考えるべきなのでしょう。基本を押さえた内容としては、

1.論文のテーマが、租税法に関する研究であること
2.論文の体を成しているか

 (「学部生のレポートのようなものになっていないか」)
3.そして、内容がしっかりとしていること(知識が間違っていない、論理が一貫している、問題意識と解決策が提示できている)

この3点を見てもらうとわかるように、修士論文というのは努力でクリア出来るものだと思っています。

東亜大学大学院の試験では、論文を作成する技量があるかを計っている試験で、クリアした人は、しっかりと努力を積み上げることで税法免除をすることが出来ると思います。

ひとりでも多くの税理士を目指した人が、税理士として活躍できることを祈っております。

※2020.5.27 レイアウト、体裁を若干修正

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