時々、政府批判などで使われる年金や国保制度。
実は、突き詰めるとそこまで悪い制度ではありません。
「制度がなくなってしまう不安」ならまだしも、「悪法だ」とか、「税金以外にもこんなにとるのか。」と批判するのはお門違いに思います。
結論から言うと、平均寿命まで生きられるなら、40年で資産を倍にはしてくれる制度です。
今日は、国民年金のコストパフォーマンスについて考えてみましょう。
目次
国民年金は割の合わない投資か?
制度と利回りについて考えてみましょう。
実は結構モデルケースを固定しないと計算しにくいものとなっています。
「支払時期と支給時期が異なる」のと、あまりに「長期間なので保険料や支給額が変わる」ことが想定されるためです。ある程度割り切って計算してみましょう。
(なにせ、支払い40年、支給20年の制度ですから。)
例の如く、モデルケースを簡単にして整理。
仮定として、
・国民年金1号被保険者で考慮(厚年は保険者で変わるのと健康保険も考慮するため複雑だから)
・今年の料率(月16,610円)、今年の支給額(480月納付で月額65,075円給付)を基に算定
・未納なし、40年納付(20歳以前の厚生年金加入等で480月を超過するケースなどは考慮せず。)
・2年前納制度など割引制度は考慮しない(用いれば当然利回りは上がる。)
・社会保険料控除を考慮、税率は平均で所得税10%(+住民税10%)区分(若干低め)とする
・支給は65歳とする(繰り上げ・繰り下げ無し)
・付加年金・国民年金基金は今回は考慮せず
制度を知らないと、前提もわかりにくいですが冗長になるのでご容赦ください。
①国民年金保険料(支払い部分)
2021年の負担額(年額)は
16,610円 × 12 = 199,320円
です。
ただ、「国民年金は、所得税住民税の社会保険控除の対象」になります。
上述の通り、全期間の平均として税区分は10%+10%=20%と仮定すると実際の負担額は、
199,320円×(100%-20%)=159,456円
となります。
この額で40年納付すると、
199,320円 × 40 = 6,378,240円
と、なります。
②給付額
次に給付額。
言わずもがな、国民年金では「死亡まで(要は終身)で無期限」個人年金が出続ける制度となっています。民間だと不利な契約なので高い保険料か有期(主に10年)で給付を終える制度がほとんどです。
さて、給付額の予想値をどう出すか。
国民年金を何年もらえるかは、統計上ある程度予想できます。
通常こういう場合は受け取る年齢からの「平均余命」で計算しますが、わかりやすく「平均寿命」で計算しましょう。(年金の支払い20歳からの余命、年金支給の65歳からの余命で比較するという見方もあります。)以下の資料をご覧ください。
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/life/life19/dl/life19-02.pdf
余命とは、「〇〇歳の人があと何年生きられるか」というもので、国でも統計を毎年出しています。詳細は省きますが、0歳の人の平均余命=平均寿命となります。
令和元年の統計によると、平均で男性は81.45年、女性は87.75年、平均して生きていることになります。
従って、65歳の年金給付から男性は16.45年、女性は22.75年貰えると予想されます。
さて、余命から予想される支給額は・・・、
65,075円 × 12 × n = 男性 12,839,883円
女性 17,765,475円
n= 男性16.45 女性22.75
と予想することができます。
ちなみに、年額は
65,075円 × 12 = 780,900円です。
実は掛け金に対し結構もらっていることがわかります。
また、女性のが492万円も多くもらえるのも気になるところですね。
男女平等社会に反するようにも思いますが、今日は関係ないのでまたいずれ。
③40年の利回りは?
まずは総合利回りを出し、1年間平均を出しましょう。
②÷①となるため、
男性 2.013…
女性 2.785…
となります。
男性は約2倍、女性はなんとペイした額が2.78倍になって返ってくるようです。
運用利回りはどれくらい?
40年の平均利回りについて、Excelや関数電卓で計算してみましょう。
ここは計算式と結論のみ。
男性 1 - 2.013 ^ ( 1 / 40 ) = 0.01764… → 1.76%/年
女性 1 - 2.785 ^ ( 1 / 40 ) = 0.02593… → 2.59%/年
となります。
したがって、低い男性側でも年平均1.76%の運用成績、
女性に至っては2.59%の運用成績になります。
2.59%の運用成績を運用上はノーリスク(制度破綻リスクと若干のインフレ懸念がありますが)で提供してくれる投資商品はそうそうありません。
なお、健康で長生きして世界最高齢の115歳まで生きれば50年、国民年金だけで約3900万円を貰うことができます。
(3)民間の個人年金
並のリターンを貰える国民年金制度、民間で代用できる商品があるでしょうか。
そもそも、終身で給付を受けられる個人年金プランはあまりありません。
これは、きっと寿命が長期化する世の中で生保会社にとって不利な商品(要は儲からない)ゆえに取り扱うことが少ないからなのだと思います。
全く存在しないわけではないので、似た商品について検討してみましょう。
①個人年金保険料
一番返戻率が高い保険というわけではありませんですが、三井住友海上の「&LIFE」という商品のシミュレーションを使ってみましょう。
支払期間は65歳までという縛りがあるため、モデルケースに合わせるため「25歳から」支払う方法で40年に合わせましょう。プランは、死亡まで貰うことを考慮し10年保証期間付終身年金(定額型)、
支給額は年30万か年60万円しか選べないため、年60万円。
(国民年金の780,900円より少ないですが・・・)
この際の性別ごとの保険料は・・・、
男性 27,012円
女性 33,510円
となります。
既に国民年金より給付額が低く、月額も高い劣後しそうな予感がしますが続けましょう。
個人年金は所得税法上の「生命保険料控除」の対象になります。
国民年金同様、税効果を考慮する必要があります、
「年間支払額>4万円」のため、所得控除額は、所得税年4万、住民税3.2万となり、税率を10%+10%として、所得税4,000円、住民税3,200円、合計7,200円です。
したがって、実質の負担額が、
●男性
年間 27,012円 × 12月 - 7,200円 = 316,944円
40年 316,944 × 40年 = 12,677,760円
●女性
年間 33,510円 × 12月 - 7,200円 = 394,920円
40年 387,720円 × 40年 = 15,796,800円
となります。
②給付額
年間60万円プランなので、月5万円(60/12)
50,000円 × 12 × n = 男性 9,870,000円
女性 13,650,000円
n= 男性16.45 女性22.75
③40年間の利回りは・・・・
最後に利回り。
②÷①となるため、
男性 0.778…
女性 0.864…
ともに「年金給付としては元本割れ」です。投資したら年金給付としては減ります。
(実は、最初計算間違いしたのかと思ったくらいでした。
終身保険は生保会社も負担やリスクが大きいからかもしれません。)
実際には、「給付前に死亡した場合は生命保険として活用される」場合もある(国年は殆どない)ので単純比較は不可能ですが、
とはいえ、国民年金の利回りの差額を生命保険料と仮定するなら、
男性 2.013 – 0.778 = 1.235
女性 2.785 – 0.864 = 1.921
との差として、
男性 1.235 × 12,389,760円 / 40年 = 382,533円
女性 1.921 × 15,508,800円 / 40年 = 744,810円
となり、
1,000万円給付の生命保険料(65歳までに死亡)で男性で月額3万円強、女性で月額6万円強はあり得ないため、国民年金の利回りのが大きく有利です。
やはり国策、悪くない
以上により、国民年金は割が合う投資といえます。
レベルとしては、リスクはほぼゼロ(インフレリスクくらいですが支給額増加あり)、リターンは40年積み立てとはいえ資産が倍になるため、金利ゼロの預金や返戻率105%(つまり利回り5%)生命保険よりはかなり有利です。
以上により、国民年金は「ローリスク・ミドルリターン」くらいの立ち位置といえます。
とはいえ、先日紹介した国策であるiDeCoのようなミドルリスク・ハイリターンのものに比べると若干劣るといったところです。
よって、「国民年金を滞納してまで個人年金を積み立てる必要はない」といえます。
結論は単純。個人年金は利回りもさることながら、生命保険料控除がショボい制度であることを含め、年金は国策(国民年金・厚生年金等+iDeCo+やるなら積み立てNISA)で、保険は生命保険単体で十分といえます。
「国民年金は悪くない投資」といえます。
一応、あまり国民年金の滞納処分の話は聞きませんですが、本来は国民年金を払わないという選択肢はありません。どうしても支払いが困難な場合は所得に応じた免除制度などがあるのでそれを活用してください。
なお、何もせず(又は資力のある)滞納者は、公課として国税徴収法に基づく滞納処分(いわゆる差し押さえ等)の対象になるので気を付けてください。
付加年金と国民年基金の話は余裕があったらいずれしようと思います。
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