リュウです。
今回は「テーマ決め」についてです。
修士論文では、トップ3くらいに入る重要な内容だと思っています。
修士論文を家を建てる作業に例えるなら、テーマ決めは「土地選び」に匹敵すると思います。
岩盤の固い土地ならば家は建ちやすく、岩盤が弱いと地盤を改良しなければなりません。
良いテーマを決めることが、安定した修士論文の作成をするための重要な要素となります。
目次
●テーマ決めとは
●研究テーマの見つけ方
●選ぶと苦労するテーマとは
●選ぶと研究しやすいテーマとは
●まとめ
●参考文献
●テーマ決めとは
東亜大学大学院基準でスケジュールを書きます。
修士論文を書くテーマを決めます。
1年生の1月末~2月始めに提出します。
・メインテーマ
・サブテーマ
を準備して、メインテーマは参考文献を探すところまで準備しておく必要があります。
大体の3~5月始めころまでに個別ゼミを開き、
テーマを確定させていきます。
なんとなく、1年生と2年生の合間でちょっと時間ができる時期ですが、
テーマ決めを甘く見ると、本当にリスクが高いものなので慎重に選んで行きましょう。
●研究テーマの見つけ方
研究テーマの選定をどのようにしたか幾人か友人に聞いてみましたが、
みんなそれぞれの方法で研究テーマを選んでいたため、これが良い方法というものはありません。
ただ、後述した、「選ぶと苦労するテーマ」は避けたほうが無難です。
①自分の携わる実務の疑問点から
東亜大学大学院の法学専攻に来る人は、
会計事務所勤務の方が多いです(たまたま私は違うのですが)。
そのため、実務で感じた疑問からテーマを選定する方が何名かいました。
実務の前知識があるため、研究初期は非常にはいりやすいテーマです。
気をつける点を挙げるならば、
「実務と研究で問題と感じる論点が違うこと」、
「単に法を批判するだけの内容だと、政策論になる可能性があること」ですね。
学術論文としての問題点と、実務上に発生する問題が異なるため、
論文が政策論に偏ってきてしまうことがあります。
私の所属したゼミでも持論として抜けない人がいて、
教授から大分指摘を受けていたことを思い出します。
②自分の合格科目(受験科目)から
税理士試験の科目から選ぶ人もいます。
自分の周りでは、特に国税徴収法合格者に多かったです。
通則法、国徴法は、理論の組み立てがしっかりしていて、
訴訟事例もあるため、法解釈の分野と相性がよいのかと思います。
他にも受験中や、今後実務で生かすためか、
未受験の科目(相続税法)について研究している人もいました。
③最近の裁判例から
東亜大学限定の方法になってしまうかもしれませんが、
入学式の際に、近年の裁判例リストを配布されているはずです。
そのなかから選ぶ方法です。
手順としては、「第一法規」で裁判例を検索(日付検索で出てくるでしょう。)して、
裁判例の内容や重要度(「!」が多いほうが重要、最大5個)から、研究テーマを抽出します。
私は、自分が興味を持ったテーマ(9月には概ね決めてました。)から選んだのですが、
後述の、「選ぶと苦労するテーマ」に該当していたため、短期間で確実なテーマを選ぶ必要がありました。
3~5テーマ、裁判例の中から興味のあるものを探し、そこから最終2テーマを抽出すると良いでしょう。
この方法は、ある程度手元にある情報で調べられるので、時間がないときにも向いています。
ただ、みんながこの方法を採るならテーマが近いものになる傾向があり、、
研究開始後に苦労する可能性もあります。
似た方法で、「租税法判例百選」を利用する手もあります。
ただ、租税法判例百選は、租税法の修士論文を書く多くの人が持っているものであり、
上述の通り、ある程度の目にさらされているため、そこから発展したテーマを選ばないと、重複する可能性や、内容の薄さで教授に指摘される可能性が否めません。
④金子『租税法』から
テーマ選びのために、金子先生の『租税法』を、端から端まで読んでいる人もいました。
お持ちの方はわかるとおり1,100頁を超える本、かつ、字も細かいため端から端まで読むのは一苦労です。
(私は、研究テーマ部分を除き、辞書代わりに読んでいた程度なので、読破はしていません。)
私はさすがにこの方法を効率がよい方法とはいえませんが、
租税の全体像を知る上で遠回りでも確実であり、そのなかから興味があるテーマなら、
注釈からすぐ参考文献が見つけ出せるので、2月の提出まである程度の時間があるときに良いかも知れません。
⑤それでも自分の興味があるものを選ぶ
最後に、結局は自分の興味があるものを選ぶことを勧めておきます。
なぜかというと、誤解を恐れずに書くと「1年間論文を書きつづけると飽きるから」です。
研究を批判するわけではありませんが、「絶対に飽きます。」
1年間研究に向かうと、専門家ではないので、研究すること、書くことがものすごく苦痛になる瞬間があります。
好きなテーマ、興味のあるテーマを選ばないと、このときの苦痛が数倍になり跳ね返ります。
①~⑤テーマでの中で、自分が興味があるものを選んだ方がよいです。
いくら最終目的が「国税審議会の認定を受けること」であってもです。
楽そうに見えるテーマでも、興味からかけ離れていると情熱(モチベーション)が薄まります。
モチベーションが低いと、論文を書きなれているような分野の方を除いて完成までに悩むことになります。
●選ぶと苦労するテーマとは
選んでリスクがあるテーマがあります。
同級生で友人のある方は、テーマの選定により留年したと個人的に思っています。
選んではいけないとは言わないまでも、選ぶと苦労を余儀なくされるテーマというものがあるものです。
そこで、修士論文に不向きなテーマをまとめてみました。
①研究され尽くしたテーマ
②抽象的なテーマ
③論文・裁判例がないもの
④制度論より法解釈との選択
⑤政策論となる危険性が高いもの
①研究され尽くしたテーマ
裁判例を基に選んだ時、裁判例が若干古いものであると、
研究者が好むテーマであるほど、研究が進みます。
これは良い点も悪い点もあります。
良い点は、研究されているので、色々な見解が見つかるため、研究しやすいこと。
悪い点は、研究され尽くしているので、新しい見解を出しづらいこと。
研究されている規模によりますが、後者のリスクが大きいと思います。
テーマを選んでも、何について疑問に思うかが重要です。
面白そうなテーマだ。だけだと指導教授や大先生にはねられます。
参考として、当てはまるテーマを例示しておきます。
例:「財産分与における譲渡所得課税について」、「所得税法56条の問題について」
※ちなみに、私は「所得税法56条」をテーマにしようとしていました。
今思うと、このテーマを選んでいたら、新しい見解を出すことが困難で終盤まで苦労していたと思います。
②抽象的なテーマ
「抽象的なテーマ」はリスクが高いです。
これには、「テーマそのものが抽象的」なことによるものと、「テーマが絞りきれていない」ことによるものがあるのですが、前者の場合は、選ぶと概念について深く研究する必要があり、結論が出すまでに相応の苦労をする可能性があります。
後者ならば、もっと具体的に問題点と改善策をある程度整理する必要がありますが、
練りこみが甘いだけなので、十分テーマになる可能性があります。
参考となるテーマ
例:「行為計算否認についての研究」、「租税回避についての研究」など
※友人はこれで苦労していました。
都度税法の大先生には、「テーマについての理解が足りない」と言われていたようです。
③論文・裁判例がないもの
極端に研究されていないテーマも苦労します。
そういったテーマゆえに、論文や裁判例がないものも多いです。
なぜ、研究されていないかを考えるとわかると思いますが、
・当たり前として研究する価値がないと思われている
・まだみんなが触れていないセンセーショナルなテーマ
などが挙げられます。
研究価値がないものと思われているものについては、研究として認められづらいこと。
センセーショナルなテーマならば無情報の中から新たな見解は自分で見出していかなければなりません。
苦労をすることは避けられないかと思います。
④制度論より法解釈との選択
②と似た話になりますが、論文の作成につき、
制度部分の問題点に挑むか、法解釈の問題点に挑むかについて迷う方もいるかと思います。
難易度としては「法解釈」を勧めます。
制度論を選ぶと抽象的な論点になりがちなので苦労します。
例えば「相続税法の財産評価基本通達 総則第6項」について、研究した方がいました。
財産評価の方法として、「この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する。」という、相続税の実務家が悩ましいと思うところの一つです。
財産の価額をどう解釈するかが論点でありますが、相応の明確な基準を研究者が定義しなければなりません。
例えば上述の「総則6項」をテーマとするなら(テーマをある程度絞れても)相続税の評価の基本通達の全体像を把握して、自分で定義を作ってを述べなければならないので、苦労することが予想されるわけです。
これが、法文の解釈ならば、「A」という法文に着目して、そこに集中した論点を絞りやすいため研究しやすくなります。
⑤政策論となる危険性が高いもの
①~④とは異なる理由でやめた方がよいテーマ選びに「政策論になる危険性が高いもの」があります。
政策論とは、簡単にいうと、国に「こういう立法(法改正)をすべきだ」とするものです。
なお、もともとの法解釈を明確にするようなものを除きます。
若干前者と比べると意味合いが違いますが、政策論の研究は避けましょう。
これは教授陣にも言われると思います。
なぜ政策論の論文がいけないかというと、「法学論文ではなくなってしまうから」です。
法学論文でなくなると、「税法の論文と国税審議会で判断されない」ため、
税法免除を受けられないリスクが生じるからです。
⑤は、①~④と異なり禁じ手と考えた方がよいです。
目的と異なることになりますので。
例として具体的なものというより、「消費税法全般」は、政策論になりやすいと聞きます。
教授陣もあまり勧めるところではありません。
①~⑤まで説明してきましたが、
一応、これらを選ぶのは不可というわけではありません。(政策論と思われるなかで法学としての視点を明示できれば④もあります。)
「選んではいけないとは言わないまでも」とするのは、そのテーマでも完成させた方がいるからです。
ただ、上述の通り、「研究しづらい」、「研究が壮大になり収拾がつかなくなる」、
「政策論なので法学論文として認められない」などのリスクがあります。
●選ぶと研究しやすいテーマとは
次に、研究しやすいテーマを挙げます。
上述の研究しづらいテーマの逆を行けばよいのです。
「多数の異なる見解があり」、「研究余地があるもの(政策論を除く)」となります。
以下のようなものは、研究テーマとして論点を作りやすく有効だと思います。
①下級審と、最高裁の結論が違うもの
②学者ごとに見解が異なるもの
③裁判例・テーマに関する論文がある
④制度論は避け、法文解釈を要するもの
などが挙げられます。
①・②などは中々見つけるのが大変ではありますが、
見つけられれば、どちらか自分の見解と一致する立場を採り、
相手を論理的に認めさせるものを書けばよいので、論文構成上、作りやすいものとなります。
③については、見解を整理するために役立ちます。
誰も研究していないことを、独自に論理づけることは大変難しいことです。
一方で、ものすごく多数の研究をされている分野では、
それらを読み終えることを前提として研究が始まるので、研究のされ具合を判断する必要があります。
④について、制度論は若干苦労するテーマになるかと思います。
とはいえ、これは好みなので、十分クリアできる内容と思います。
●まとめ
論文を作成する上で重要なことについて、
商法ゼミの先生の言葉を載せておきます。
●参考文献
役立ちそうな文献をリンクしています。
2年生(1年生も?)なら既に持っているかもしれませんが・・・。
・金子宏『租税法』(弘文堂、22版、2017)
・佐藤英明『スタンダード所得税法』(弘文堂、補正2版、2018)(所得税法を題材にするならオススメ)
・中里 実=佐藤 英明=増井 良啓=渋谷 雅弘(編)『租税法判例百選』(有斐閣、6版、2016)
・第一法規などの判例が見られるサイト(法学部学生なら使えるツールを提供されているはず。)
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