数日前、「ファンドマネージャーの株式戦略 渡辺幹夫 著」を読んだ時、「ROEは高リターンをもたらす指標ではない」、としていたことが気になり、ROEについて考えてみました。
結論としては、「有効な指標のひとつだが、単体では役に立たない場合もある」と考えざるを得ないようです。
この記事では、「ROEが使える指標か」を改めて検討してみることとします。
ROEとは
ROE(株主資本利益率)は、最近では企業でもよく使われる指標で、資本の効率性を表す指標です。
よく使われる計算式としては、
ROE = 利益/株主資本
= EPS(1株収益)/BPS(1株純資産)
= PBR(株価/BPS)/PER(株価/EPS)
などが使われます。
計算式から現れる傾向としては、
「資産から利益がどれだけ出てくるか」が分かる指標で、
効率よく企業が動いているかどうかが分かります。
しかし、ROEが高い企業が必ずしも効率の良い企業とは限らないのです。
また、分母にも分子にも株価がついているため、
ROEは「株価には影響してこない指標」です。
数値からROEを考える
例を出してみます。
●ケース1
PBRが1.0倍の企業A社があります。
ここで、A社のPERが10倍の時、ROEは、
1/10 = 0.1 = 10% となります。
もし、前者と比較して割安なPER5倍の時、
1/5 = 0.2 = 20% となります。
これは、株価を固定したとして、EPS(1株あたりの利益)が少ない場合、PERがさがるため、
「EPS(1株あたりの利益)が大きいほどROEは上昇する」事を指します。 ①
●ケース2
PERが10倍の企業B社があります。
B社のPBRが1倍の時、B社のROEは、
1/10 = 0.1 = 10% となります。
では、PBRが0.5倍の時、
0.5/10 = 0.05 = 5%
また、PBRが2倍の時、
2/10 = 0.2 = 20% となります。
これらから、「PBRが高ければ高いほどROEが上がる」わけです。 ②
①と②から、PERは低く、PBRは高いほどROEが上がる。
もしくは転じて、EPS(利益)が高く、BPS(資産)が低いほどROEが上がる。
と考えられます。
そうすると、PBRが低い(=資産が多い)ほどROEが下がってしまうため、
有形資産価値の高い企業はROEが低くなってしまうわけです。
つまり、(PERと)PBRが低い、グレアム先生の好むようなバリュー銘柄を、ROEで見つけ出すことは困難となってしまうわけですね。
また、借金をして企業規模を大きくしている企業は、EPSが高い割に株主資本が少なくなるため、ROEが上がるわけです。
ROEの弱点をまとめると、
1 資産が多い企業(例えばキャッシュリッチ企業)はROEが低くなる
2 逆にジリ貧な企業(資産を売り払ったり、借金をした企業)のROEも高くなってしまうことがある
そして、もうひとつ。
3 ROEが有効な指標だと考えられだしたため、株価が割高になりやすい
という問題点が増えてきました。
特に最後の理由もあいまって、投資効率がおちてきたのだと思われます。
以上により、ROEが高いというだけでは、投資に向いている企業かどうかは分からないのです。
自社株買いは効果的か
そうすると、自社株買いはROEをあげるといわれるのは本当なのだろうか。
自社株買いの主な目的としては、(自社のキャッシュを使い、)自社株を買い、株式数を減らす。
すなわち、BPS(資産)を減らし、EPS(1株利益)をあげる。
もしくは、PBRを大きくし、PERを下げる。
計算式場はROEが上がります。
単純に考えると有効な戦略です。
無駄な資産を削って1株収益を上げるため会社をスリム化するため、純資産に対する利益率が上がるわけです。
ただ、自社株買いをすべきではない場合があります。
・自社にお金がないとき(又は借金してまで自社株買いするとき)
・現在の資産を活用して、会社規模を拡大できる余地が大きい時
前者は、ROEは上がるのですが総資産から見ると借金が増えるだけで、会社の効率が上がったわけではありません。
誤解を恐れず言うと、借金をして株主に振り分けているわけです。
後者の場合は、言うまでもなく、成長する事業にお金を振り分けるのは、企業行動として理想の状態なので自社株買いより有益といえます。
結論として、自社株買いは、
会社規模がある程度大きくなってキャッシュがあまっている時、又は会社をスリムにするために使用するのは有効。
逆に、成長可能性が高い、もしくはお金がないときに自社株買いをする価値はない。
ということになります。
ただ、自社株買いは、EPS(1株収益)は上がります。
そのため、株主にはありがたい制度です。
PER(株価/EPS)が一定の場合、株価の上昇により調整されるため、また、株式数が減るので、配当金も上がる可能性があります。
借金してまでやる価値はないですが・・・・
ROEは、企業の資産が利益を生み出す効率を示すのに有効な指標です。
しかし、単体で見るとROEをあげる方法はいくつかあり、悪用するとROEを目くらましに、一見良い企業を作り出すことが可能になります。
確かにバフェットが選ぶ企業は、PBRが割高(すなわちROEが高め)な傾向があります。(コカ・コーラなどはROE30%(なお、PBRは4倍強)を超えます)
おそらく、キャッシュを稼ぐ力が大きいので、企業の資産価値が0でも毎年大きなお金を生み出せる企業ということなのでしょう。
目に見えない資産価値があるということなのかもしれません。
バフェットは、これらのROEの目くらましに対し、
・ROA(借金をすると低くなる)
・企業の独占力
・自社株買い
・継続的なEPSの成長
などに着目し、ROEのみに頼らない企業探索をしています。
指標に加えて、目に見えない企業資産に着目することが大事なのでしょう。
※2020.5.23 レイアウトと文章を修正、画像を挿入
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