【国徴法小話8】滞納者が死亡時に残った税金の取り扱い(その1)

税金の話

さて、今日も国税徴収法の特殊論点。
もう少し書きたいことがあるのですが、調べることが多いので不定期更新になっています。

今日のゲストは「民法」です。
相続税法でもおなじみの民法ですが、実は国税徴収法でも関連してくることがあります。

 ・滞納者が死亡した場合の税金はどうなるのか
 ・相続人がいない場合、滞納税金はどうなるのか

今回は、このような「滞納者の死亡後の税金の取り扱い」について。
特に「相続人がいない状態で滞納があった場合」の取り扱いについて考えて行きましょう。

長くなったので、2回にしました。

今日の部分がCランク(10年に1回)の論点。
明日のは、範囲といっても恐らく50年に1回も出ません。

いつもどおりのコーヒーブレイク論点です。
予備校の帰りに息抜き程度に読んでもらえればと。

敢えて、死亡者課税には触れません。
大人の事情です。

滞納者が死亡した場合の納税義務の承継

滞納者が税金を残して死亡した場合に誰が納付する必要があるか。

当然、本人は納付することができません。
(本人の意思とは関係なく、納付されることはありますが・・・)

結論はシンプルで、滞納者が死亡した場合、原則的には相続人に納税義務が承継されます(国税通則法5条1項)

承継のされ方は大きく2つ、

 ・既に本人に課税済のもの
 ・(納税義務は成立しているが)課税前のもの

に分かれます。

前者は滞納して死亡した場合を想定。
後者は、「死亡後に申告期限を迎えるもの」「納税通知書発送前の税金」というような事例が想定されます。

前者は「対象となる税金を(法定)相続分等で按分」
後者は、これから課税される予定だった税金を「(法定)相続分等で按分して相続人に課税」することになります。

とはいえ、細かい運用こそあれ、法定相続分等で按分され納税義務が課されます。(厳密には端数調整が異なるなどの違いがある。)

同条には、限定承認の場合は私債権と同様、限定承認の財産の範囲まで納税義務を承継する旨かかれています。(国税通則法5条2項・3項)

死亡者に対する滞納処分

死亡後の滞納処分は原則不可能

納税義務の承継とあわせて重要なポイント。

滞納者が死亡した後は、原則的に「滞納者に対し滞納処分をすることができない」ことになっています。
(「法文による例外」と「解釈による処理」により死亡後にも差押等が成立することがあります。それぞれ今日と明日で1個ずつ後述。)

論理的には、国税徴収法(通則法)上、
本人に督促状を送付(国税通則法37条)できないので、
死亡後に滞納処分(国税徴収法47条)をすることができないわけです。

また、被相続人の財産は、原則的に死亡時に相続人に承継される(民法882条)ので、勝手に処分することができません。そのため、死亡後は相続人に対し滞納処分をしていくことになります。
(このあたりは、相続人固有の財産の差押換の論点とあわせて出るかもしれません。)

※一応、ニッチな論点なのですが、限定承認の場合は「繰上請求事由(国税通則法38条)」のため、督促不要で相続人に対し差押え可能です。

死亡していたのに気づかなかった場合の滞納処分

法文での例外。

国税徴収法139条に、
「滞納者の死亡後その国税につき滞納者の名義の財産に対してした差押えは、
 当該国税につきその財産を有する相続人に対してされたものとみなす。」

とあります。滞納者が死亡していても、それに気付かずした滞納処分(差押等)は相続人にしたのと同じ扱いにする規定です。

ただし、期間限定です。
同条には、

「ただし、徴収職員がその死亡を知つていたときは、この限りでない。」

とあります。

現代において、マイナンバーが租税関係で閲覧できる以上、
「死亡しているかを税務署の人や自治体の人が知りえない期間は短い」といえます。

死亡した直後に、差押書の送達や登記を行った場合に、死亡を知らなかった団体が知りえた団体に劣後するのを防ぐための立法趣旨と思われます。
そのため、「知らなかったからOK」といえる期間は限られるといえます。

原則は(1)の通り、相続人に対し相続財産を差押えることになります。

長くなりそうなので、明日続きを書くことにしました。

まとめ

今日の結論はシンプル。

1 滞納者が死亡したら、相続人が納付しなければならない
2 滞納者の死亡後の未納分は、滞納者に対して滞納処分(差押等)できない
3 徴収職員が滞納者の死亡を知らなかった場合、滞納者の死亡後にした滞納処分は有効

明日は、さらにニッチな論点。
「相続人がいなかったらどうするのか」について考えていきます。

法令部分

●国税通則法(抄)
(相続による国税の納付義務の承継)
第5条
  相続(包括遺贈を含む。以下同じ。)があつた場合には、相続人(包括受遺者を含む。以下同じ。)又は民法(明治二十九年法律第八十九号)第九百五十一条(相続財産法人の成立)の法人は、その被相続人(包括遺贈者を含む。以下同じ。)に課されるべき、又はその被相続人が納付し、若しくは徴収されるべき国税(その滞納処分費を含む。次章、第三章第一節(国税の納付)、第六章(附帯税)、第七章第一節(国税の更正、決定等の期間制限)、第七章の二(国税の調査)及び第十一章(犯則事件の調査及び処分)を除き、以下同じ。)を納める義務を承継する。この場合において、相続人が限定承認をしたときは、その相続人は、相続によつて得た財産の限度においてのみその国税を納付する責めに任ずる。
 2 前項前段の場合において、相続人が二人以上あるときは、各相続人が同項前段の規定により承継する国税の額は、同項の国税の額を民法第九百条から第九百二条まで(法定相続分・代襲相続人の相続分・遺言による相続分の指定)の規定によるその相続分により按あん分して計算した額とする。
 3 前項の場合において、相続人のうちに相続によつて得た財産の価額が同項の規定により計算した国税の額を超える者があるときは、その相続人は、その超える価額を限度として、他の相続人が前二項の規定により承継する国税を納付する責めに任ずる。

(督促)
第37条
 納税者がその国税を第35条(申告納税方式による国税の納付)又は前条第二項の納期限(予定納税に係る所得税については、所得税法第百四条第一項、第百七条第一項又は第百十五条(予定納税額の納付)(これらの規定を同法第百六十六条(非居住者に対する準用)において準用する場合を含む。)の納期限とし、延滞税及び利子税については、その計算の基礎となる国税のこれらの納期限とする。以下「納期限」という。)までに完納しない場合には、税務署長は、その国税が次に掲げる国税である場合を除き、その納税者に対し、督促状によりその納付を督促しなければならない。
 ① 次条第一項若しくは第三項又は国税徴収法第159条(保全差押)の規定の適用を受けた国税
 ② 国税に関する法律の規定により一定の事実が生じた場合に直ちに徴収するものとされている国税
 2 前項の督促状は、国税に関する法律に別段の定めがあるものを除き、その国税の納期限から50日以内に発するものとする。
(略)

●国税徴収法(抄)
(差押の要件)
第47条
 次の各号の一に該当するときは、徴収職員は、滞納者の国税につきその財産を差し押えなければならない。
 1 滞納者が督促を受け、その督促に係る国税をその督促状を発した日から起算して10日を経過した日までに完納しないとき。
(略)

(相続等があつた場合の滞納処分の効力)
第139条
 滞納者の財産について滞納処分を執行した後、滞納者が死亡し、又は滞納者である法人が合併により消滅したときは、その財産につき滞納処分を続行することができる。
 2 滞納者の死亡後その国税につき滞納者の名義の財産に対してした差押えは、当該国税につきその財産を有する相続人に対してされたものとみなす。ただし、徴収職員がその死亡を知つていたときは、この限りでない。
(略)

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