税理士試験も大学院免除も過程であること

リュウです。

今月(平成30年9月発売)の会計人コース10月号(税理士試験・会計士試験受験生などを対象とした雑誌)に、
『税理士になるための選択肢「大学院」進学』の特集を組んでいます。一部、東亜時代の友達が執筆しました。

彼の原稿を見たところ、東亜大学大学院の特徴を概ね網羅していると思います。

他大の方や大学院関係者も執筆しており、特集だけで25ページ以上割いています。
大学院を目指すうえでのヒント、研究室の選定などいくつかのことについても載っているので、これから大学院を目指す方は読む価値があると思います。

今月の会計人コースの大学院特集で好きな言葉は、
千葉経済大学大学院を経由して税理士になった中川祐輔税理士の、『大学院に通うメリットは、私は「論理展開」と「判例」と「人脈」の3つだと思います。(P37)』ですね。

大学院では、試験とは違い(修士)論文を作成することにより税理士の適性を判定されます。

論理的思考ができるようになること、判例を原文で読めるようになること、東亜の場合は全国に税理士(候補生)の知り合いができることは大きなメリットです。
それぞれの知識・経験は、税理士として活躍する上で、試験に勝るとも劣らない重要な財産になると思えるのです。

最近ある掲示板(どこだか丸わかりかと思いますが)を見ていたら、大学院制度に対するいくつかの批判を見かけました。

中には「大学院は正当な手段ではない」とするような過激なものもあり、ここで一考する機会なのかなと思いました。

そこで、今回は大学院と5科目合格で対立する点を軸に大学院制度を考察してみました。

●目次
1.分類と批判の内容の整理
2.大学院にかかったコストを税理士試験と比較してみる
3.まとめ

1.分類と批判の内容の整理

(1)分類
反対だと言う方も、いくつかに区分されるようです。

制度に対する批判の内容を大きく分類すると、税理士試験の(大学院)免除制度賛成派と反対派に分かれます。

賛成派の中には、「特定の大学の大学院でないことを批判の対象にして」いる方もいるようです。
(学歴に関しては、どこでもケンカの種だと思うので書きません。)

反対派の中には、「大学院(修士)のみ批判し、博士課程や会計士、弁護士、税理士OBのうちいずれかはOK」とする方と、「全部認めない」方がいるように思います。

(2)反対する理由
個人的にはしっくりこない理由もありますが、それは後述するとして。
以下のような理由が上がってるように思います。

①税理士試験を通して税理士の実力を測っているので、試験通らずして資格を取れるのは不当
②大学院はラク
③試験免除された税理士はバカされる

見ていくと、あたりが主要なものかと思われました。
一つ一つ考えていきましょう。

①税理士試験を通して税理士の実力を測っているので、試験通らずして資格を取れるのは不当である

 現在の受験生なら感じているところなのかもしれません。
 今の税理士試験に科目合格(特に税法、法人税法・所得税法)、試験に対し並々らぬ準備が必要になります。

 特に理論暗記は苦痛以外の何者でもありません。
 そんな「理論暗記もせず大学院で研究をした人が認定合格となるのは納得できない」とする意見には一理あるかと思われます。

 ただ、「税理士試験で税理士として能力を測るのは困難なので、合理的に税理士として実務経験を積むほうが有意義」に思いました。
 (私の場合は、受験当初から大学院を利用した合格を検討していました。予定より2年遅くなりましたが)
 
 20年前に5科目合格した税理士が、今年、仮に再度受験させられて科目合格を取れるとは思えない一方で、
 実務経験を前線で積み上げた税理士に、その適性が無いとは必ずしもいえないわけです。
 したがって、「試験合格」と「能力がある」は、同義ではないのかなと思います。

 大学院に入るための学位(学士等)や金銭面が難しいのも、
 学位不要の大学院や奨学金で十分対応できます。

 5科目合格に10年、20年とかけるようなものではありませんし、お金も時間も浪費することになります。
 10年早く合格して税理士の実務家として活躍すべきなのかと思っています。 

 
 もう一つ、平成14年の改正で科目合格を必要となって、「公平性を取っている点(免除科目や免除科目数など)」を指摘する人も居るようです。 

 とはいえ、むしろ試験を受けていない「公認会計士」、「弁護士」、「税務(官公)署OB」は、科目合格すら不要で資格取得可能なところの方がよっぽど疑問なところではあります。

 ・会計の専門家である公認会計士に、なぜ税法科目を受けさせないのか
 ・法律の専門家である弁護士に、なぜ会計科目を受けさせないのか
 ・税務(官公)署の規定年数経験者に、なぜ税法科目、会計科目の1科目でも受けさせないのか

 公認会計士の論文科目「租税法」の過去問を見てもらえればわかるとおり、(主に出題される)法人税法合格者は思うところがあるかもしれません。

 以上により、「試験合格」も「認定合格」も「資格取得のための手段の一つ」に考えるべきなのかなと思います。

②大学院はラクだ

大学院ってラクではないです。
どうやって伝えればいいでしょうかね。

大学院に進んだことのない税理士試験受験生だと、大学院の事情など知らないので不公平なところではあります。

後述しますが、暗記のように苦痛ではありませんが、そこそこの時間をかけて論文を作成しています。

大学院はラクではなく、行く価値もあります。
個人的には、税理士資格取得後に時間があるなら、学びに行く価値があると思っています。

税理士は、一流の「会計の専門家」であると同時に一流の「法律の専門家」であるべきですので、法適用について自己の考察ができるようになるくらいまで学ぶのも重要だといえます。

③試験免除された税理士の評価は低い

これだけは、私も体験してないのでわかりません。
クライアントは、そんなこと指摘してくるとはとても思えないのです。

私も、税理士会に所属したら、大学院かー、とか言われたりする時が来るのかなぁ・・・。
それこそ、科目合格もしていない税務署OBなどの方が評価が低いといわれてしかるべきなんだろうけど、国税の関係者なんかに言えないんだろうな・・・。

言われやすい人が損をするのは、この国に住む人の宿命だと思います。

以上の点で、試験合格にこだわりすぎても仕方ないのかと思います。
試験で5年で合格できるなら試験、それで無理(又は無理そう)なら大学院等の手段を取ればいいとおもうのです。

2.大学院にかかったコストを税理士試験と比較してみる

大学院でかかったコストを整理してみました。
試験ほどではないですが、中々お金と時間がかかります。

(1)必要なお金
      学費      200万円(2年)
      教科書等の書籍類 20万円(租税資料館などヘの移動費や国会図書館のネットコピーなど)    
      スクーリング等  10万円
      卒業式      10万円
      雑費       10万円
      合計      250万円
 2年で250万円くらいといったところです。
 都心なら移動費分もっと安いし、教科書、論文コピーは工夫でもっと安くなるといえます。

 学費は1年生の時のほうが高めです。入学金等を支払うためです。
 

(2)時間
 基本的に余裕がある時期は、1年生の夏~秋ごろになります。
 科目が足りていない人は、必ず1年生のうちに取りましょう。

 1年生の秋には試験も終わるので、テーマ探しにエネルギーを割けばそれ相応に2年生のリスクや手間が減ります。

 とはいえ、テーマ決めでリセットを食らうようなケースもあるので、進めていけばうまくいくわけでもないのが難しいところ

 ①1年生
 基本的に1年生は「税法研究を入れた6科目の単位を取ること」と、「テーマ決めができていること」だけで問題ないと思います。

 ・各科目 講義15時間+レポート25時間くらいで1科目40時間 × 7科目 = 280時間
 (税法以外5科目取ればいいですが基本みんな取ります。)
 ・テーマ探し 100時間
 ・スクーリング 2日間 ×20時間 = 40時間
 合計 420時間程度 → テーマ探しに苦戦したら500時間を見込めばいいところ。

 ②2年生
 大抵の人は追い込みで苦労します。
 私の周りに年末に余裕の院生は、ほとんど居ませんでした。

 早い時期(3月くらい)からコンスタントに書く習慣をつけると、
 スクーリング、ゼミの6月、9月、11月に適正な指導を受け、2年で安心して卒業を目指せると思います。

 土日もあわせておおよその時間を出してみました。

 ・3~5月 1日2h × 92日 = 184時間 
  テーマ決め後の資料集め、資料を読む時間(主に論文を読む以外は土日活動) 
  目標は、結論をどうするかの方針と、全ての章立て目次完成+判例評釈、序章(研究のための基本となる法文の解釈)を完成させること

 ・6~8月 週3日3h  92日×3(日)/7(日)×3h≒118h
 
 ひたすら書き進める(「荒削りだが完成」を目安時期)、私は税理士試験受験者でもあったので割と少なめ。
  好きなテーマで材料も揃っているなら、論文を書いていて楽しいと感じられる時期かもしれません。
 
 ・9~10月 1日4h  61日×4h = 244h
  9月ゼミの指摘事項を元に、完成稿に近づける時期。土日どころか家に帰ってからもコンスタントに論文作成。
  出来次第で、週1日くらい平日に休める感じ。ほどほどに休みを入れないと11月頃燃え尽きるので根をつめすぎないように。

 ・11月~1月 1日4h 92日×4h = 368h
  最終稿完成のための時期。11月スクーリングで大先生が言ったことを整理し、完成させる時期。
  12月に入ると、論文要旨、発表用原稿も手がけることになる時期。

 ・2月 1日2h  10日×2h = 20h
  公聴会発表用原稿を元に発表リハーサル。ここまで来ると勉強時間より体調管理が必要。

 合計 934h

 ざっと計算しましたが、1000hくらいかかっていますね。
 論文資料は研究テーマで大分数が違うので、読み込みだけで+200~300hくらいかかってもおかしくはありません。

 結論として、1年で500h、2年で1000hくらいといったところでしょうか。

 消費税法・相続税法1科目分の勉強時間程度にはなったかなと思います。(法人税法、所得税法にはかなわないですね。)

3.まとめ

結局、試験で5科目合格を目指す方が、大学院制度に納得できない理由は、

 ・税理士試験が長くかかりすぎる(特に暗記が苦痛)
 ・長くかかり過ぎて遊びが少なくなる
 ・試験合格のための暗記が苦痛

なのではないかなと思います。
不条理かつ実務的にそぐわない試験を改める必要があるのかもしれません。

例えば、試験を3年で終了できるくらいの難易度だったなら、
2年かけて大学院の免除を目指すことはそこまで不満はでないと思うのです。

税理士試験は、途中でやめた人を除いて計算しても、最初に合格した科目から「およそ9年かかる」という分析をしているサイトがあります
異様に長いですね。

東亜の同級生にも、
「どうしても受からない。消費税で5年かかってしまったので大学院に入った」という人もいました。
簿財をあっさり合格すると、ついつい簡単な試験だと思ってしまい税法で長期化することがあります。

また、現在の業界は、記帳や申告などは、専門的なソフトやクラウドの利用で手間を減らし、法適用の能力、コミュニケーション力、税以外の経営的発想ができる税理士が求められているようです。

そういった意味でも、大学院での経験は役立つので、受けるのは一つかと思います。

試験合格そのものが目的でない限り、早く税理士になって実務経験を積んだ方が有意義ですし、楽しいと思います。
目指した人がひとりでも多く早く終わることを祈っています。

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