今日は、のんびり娘と買い物です。
昨日が若干寝不足だったのか調子が悪かったので、やることを終わらせねば。
さて、本題。
昨日からの続き。
死亡した場合は、原則的に相続人が財産を承継するとともに納税義務も承継されます。このあたりは当たり前と言えば当たり前、私債権でも同様で、相続税の取り扱いなどと併行して進みます。
では、今日の論点「相続人がいないケースはどうするのか」について考えましょう。
目次
全員相続放棄(相続人不存在)の場合
前回の2のとおり、「滞納者が死んだら、相続人に請求する。」
ここまでは腑に落ちます。
次に「相続人がいない(厳密には存在が不明)とき」はどうするのか。
ありそうな事例として、
①被相続人の負の資産が多いから「法定相続人が相続放棄をした」とき
②「単純に法定相続人がいない」とき
などが想定されます。
相続財産法人の成立
まずは、相続人不存在の時の法律上の動き、
相続人が存在するかどうか不明(運用的には不在を含む)の場合、被相続人の財産は法人になります(民法951条)。
財産全体を債権者に配分することを目的とした法人として扱います。
財産が人として扱われる。
イメージがわきづらいと思いますが、身近(?)なところで財団法人や破産財団などがイメージに近いものとなります。
例えば、坂本龍馬(仮名)さんに相続人が存在しなかった場合、「亡坂本龍馬相続財産」という法人(概念)ができます。
坂本龍馬が暗殺され相続人が不存在で、土佐藩にお金を借りていた場合、未納の税金があった場合には、「坂本龍馬の財産を法人として扱い、お金に換えて債権者に分配する」こととなります。
相続財産管理人の指定
さて、ここで問題が生じます。
相続財産は、原則相続人しか処分できません。
したがって、相続財産法人からお金をもらうにしても、個々の債権者がその財産を勝手に処分することはできません(民法918条の解釈。後述、一部可能と思しき条件のものもある。)。
「相続財産(法人)の財産をお金にして分配してくれる人を決める」必要があります。それが「相続財産管理人」です。
法令により、利害関係人(債権者や税務署長・市町村長など)の申立に基づいて、家庭裁判所の書記官の審判により選任することになります(民法952条)。
相続財産管理人の大まかな業務としては、
・相続財産の換価
・相続財産を(売れるまで)保全
・換価した金銭を滞納税金や私債権に支払う(民法958条の3)
・余ったを特別縁故者に分配し、最後に国庫に返す(民法959条)
のようなものがあります。
破産の時の「破産管財人」にイメージ近いと思われます。
破産管財人も弁護士さんがやりますね。
なお、相続財産管理人になるための資格に制限はありませんので、誰でもなることは出来ます。しかしながら、通常は弁護士さんなどがなることがほとんどです。
大まかな手順
「相続財産管理人」の選任手続きについて。
詳しいページも多いと思うので概要のみ。
①相続財産(その他債務の有無も)を整理する
②予納金・印紙・官報公告料・郵便代を準備
③家庭裁判所に申し立て(書記官さんが丁寧に教えてくれるそうです)
④相続財産管理人(弁護士)さんが選任
⑤あとは弁護士さんに財産の処分を任せる
⑥相続財産へ滞納処分をしておく必要あり
詳細は、弁護士さんのホームページで解説しているので、割愛します。
ひとつだけ重要なポイントとして、
「予納金」を家庭裁判所に納付する必要があります。
予納金とは、相続財産管理人が動くためのお金です。
わかりやすく言うと「手付金(保証金)」です。
相続財産管理人は、相続財産法人から得られたお金から優先的に報酬を受け取ります(国税徴収法でいう「滞納処分費」みたいなもの)。
しかしながら、相続財産法人の資産が少ないと換価後に報酬が不足し、働き損となりえます。そのため、裁判所は相続財産管理人にお金を渡せるように、一定のお金を予納金として提供するよう指示します。(換価後に相続財産管理人の報酬に不足がなければ返って来ます。)
予納金の額は、家庭裁判所の書記官さんが処分する財産の量などにより判断し、数十万円から百万円くらいといわれています。
つまり「百万円くらい財産を持っていないと、債権者や税務署が予納金の払い損となってしまう」ことも想定されます。
税務署は、相続財産管理人を立てても回収できないと判断したら、滞納処分の停止(国税徴収法153条1項1号)を行うこととなるでしょう。
相続財産に対する滞納処分
その他の論点として、「相続財産に対する滞納処分」があります。
相続財産管理人になった弁護士におまかせと書きましたが、相続財産法人に対し差押をしておかないと配当のときに不利になることが想定されます。
死亡時に督促を送付していない税金の滞納処分
国税(地方税)優先の原則(国徴法8条ほか)は、
「滞納処分された財産について優先弁済を受けることができる規定」です。
相続財産(法人)に滞納処分をしてないと配当時に優先弁済を受けることは難しいといえます。そのため、相続財産法人に対し、差押等の処分をする必要があります。
昨日書いたとおり、このようなケースでは、本人が死亡していて(相続人がいないので)通知できません。一方で、相続財産法人に対し督促・差押え(交付要求?)をすることができます。
これも破産(破産財団)などのケースと同様に、相続財産法人を管理する「相続財産管理人に対し通知」することとなります。
死亡時に督促済の税金の滞納処分
そしてもうひとつ差押えに関する論点。
被相続人(滞納者)が死亡前に督促を受けていた被相続人名義の債権(後日、相続財産法人になる財産に含まれる)は、差押の成立要件が本人に対する通知でないため(国税徴収法62条)のため、本人死亡により、差押調書の謄本の送達ができない場合でも、差押・取り立てが可能であるとする見解があります。
ただし、昨日書いたとおり、死亡者に督促状が届くことはないため、「督促状を既に送っている差押可能なもののみ」と考えられます。
なお、不動産などの滞納処分は、「本人に対する差押書の送達」が要件となるため行えません。
問題として出題されたなら・・・
100%出題されないと思いますが、一応例題。
(なお、納税義務の承継までは、きわめて低確率で出ますので気をつけて)
問1
滞納者甲が税金を完納できず死亡した。死亡時の住所地はY市内である。
X税務署が行う対応を述べなさい。(40点)
①調査の結果、滞納者甲に相続人が存在しないことが判明している。
②保有している財産とその見積評価額は以下のとおり。
・乙銀行の預金 120万円
・亡甲の自宅 400万円
③滞納税金は以下のとおり。
(なお、甲には債務は存在していないことが確認されている。)
・X税務署(平成30年分申告所得税)300万円
・Y市役所(令和元年度分市町村民税)250万円
④Y市を管轄するZ法務局における相続財産管理人選任に係る予納金は60万円と見込まれている。
理論問題の柱上げだと、
1 納税義務の承継
2 滞納者の死亡時を把握していなかった場合の滞納処分
3 相続財産法人の成立(民法951条)
4 相続財産管理人の選定(民法952条)
5 国税優先の原則
(6 滞納処分の停止)
あたりでしょうか。
詐害行為取消権(民法424条)も国税徴収法のテーマに上がるので、民法も十分射程圏内と考えます。(絶対出ないけど。)
まとめ
昨日からのポイントの整理
1 滞納者の死亡後は原則的に相続人が納税する義務を承継する
2 相続人がいない(不明)場合、「相続財産法人」が成立する
3 利害関係者は家庭裁判所を通じ、「相続財産法人」に相続財産管理人を選定してもらい財産の処理を行う
4 滞納処分をしていないと優先配当を得られない
やるべきことは民法なので出題されることは無いと思いますが、
国税徴収法で出るとすると納税義務の承継です。
10年に1回くらい出ているようですね。
相続財産法人は99.9%でないと思います。
C論点(どころか過去に出題されたことは無いと思う。)ですが、仕組みを知っておくと良いと思います。
法文
●国税徴収法
(国税優先の原則)
第8条 国税は、納税者の総財産について、この章に別段の定がある場合を除き、すべての公課その他の債権に先だつて徴収する。
(差押えの手続及び効力発生時期)
第62条 債権(電子記録債権法第二条第一項(定義)に規定する電子記録債権(次条において「電子記録債権」という。)を除く。以下この条において同じ。)の差押えは、第三債務者に対する債権差押通知書の送達により行う。
(滞納処分の停止の要件等)
第153条
税務署長は、滞納者につき次の各号のいずれかに該当する事実があると認めるときは、滞納処分の執行を停止することができる。
一 滞納処分の執行及び租税条約等(租税条約等の実施に伴う所得税法、法人税法及び地方税法の特例等に関する法律(昭和四十四年法律第四十六号)第二条第二号(定義)に規定する租税条約等をいう。)の規定に基づく当該租税条約等の相手国等(同条第三号に規定する相手国等をいう。)に対する共助対象国税(同法第十一条の二第一項(国税の徴収の共助)に規定する共助対象国税をいう。)の徴収の共助の要請による徴収(以下この項において「滞納処分の執行等」という。)をすることができる財産がないとき。
二 滞納処分の執行等をすることによつてその生活を著しく窮迫させるおそれがあるとき。
三 その所在及び滞納処分の執行等をすることができる財産がともに不明であるとき。
(略)
●民法(抄)
(相続財産の管理)
第918条
相続人は、その固有財産におけるのと同一の注意をもって、相続財産を管理しなければならない。ただし、相続の承認又は放棄をしたときは、この限りでない。
家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求によって、いつでも、相続財産の保存に必要な処分を命ずることができる。
第27条 から第29条 までの規定は、前項の規定により家庭裁判所が相続財産の管理人を選任した場合について準用する。
(相続財産法人の成立)
第951条
相続人のあることが明らかでないときは、相続財産は、法人とする。
(残余財産の国庫への帰属)
第959条 前条の規定により処分されなかった相続財産は、国庫に帰属する。この場合においては、第956条第2項の規定を準用する。
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