【国徴法小話1】差押はいつから行われるか(原則的な差押え)

リュウです。

WordPressのブログでは、「国税徴収法の勉強法」という項目が割と読まれていたようです。

当方、他の税法の勉強もさることながら、国徴法の仕組みが好きで試験後も勉強していました。
大学院で必要なことは概ね書けたと思うので、裁判例や小話を含めた国税徴収法について少し語って見ようかと思います。

なお、大学院について気になる話があれば書きますので、希望がある方は言ってください。

今日は「差押の条件」について。
受験生はご存知の通り、突き詰めるとかなり奥深い分野ですが、簡単な原則部分(督促状発布を要する原則的な差押)のみ書こうと思います。。

読むとわかるとおり、意外と差し押さえの対象になっている方もいると思います。

差押の条件を満たしても税務署が差押をしないのには色々理由があると思いますが、恐らく税務署の担当者は「単なる納付忘れ」か、「納付する気がない悪質な滞納者か」を識別する期間なのだと思います。

また、滞納者になった時点で既に「財産調査」の対象になっているため、自分の財産情報がバレている可能性があります。したがって、差し押さえられないからいいというわけではなく、滞納しないに越したことは有りません。参考になれば幸いです。

●もくじ
1 法文について(国徴法47条)
2 実は差押の条件は2個のみ
3 「逃げ得」は認められるか(送達)
4 まとめ

1 法文について(国徴法47条)
まずは、法文にあたってみましょう。修士論文でも原著にあたることは重要ですので。

・国税徴収法(抄)
(差押の要件)
第四十七条 次の各号の一に該当するときは、徴収職員は、滞納者の国税につきその財産を差し押えなければならない。
 一 滞納者が督促を受け、その督促に係る国税をその督促状を発した日から起算して十日を経過した日までに完納しないとき。
 二 納税者が国税通則法第三十七条第一項各号(督促)に掲げる国税をその納期限(繰上請求がされた国税については、当該請求に係る期限)までに完納しないとき。
(2項以下は今日は略)

督促について知っておく必要があると思うので、通則法も引用しましょう。

・国税通則法(抄)
(督促)
第三十七条 納税者がその国税を第三十五条(申告納税方式による国税の納付)又は前条第二項の納期限(予定納税に係る所得税については、所得税法第百四条第一項、第百七条第一項又は第百十五条(予定納税額の納付)(これらの規定を同法第百六十六条(非居住者に対する準用)において準用する場合を含む。)の納期限とし、延滞税及び利子税については、その計算の基礎となる国税のこれらの納期限とする。以下「納期限」という。)までに完納しない場合には、税務署長は、その国税が次に掲げる国税である場合を除き、その納税者に対し、督促状によりその納付を督促しなければならない。
 一 次条第一項若しくは第三項又は国税徴収法第百五十九条(保全差押)の規定の適用を受けた国税
 二 国税に関する法律の規定により一定の事実が生じた場合に直ちに徴収するものとされている国税
 2 前項の督促状は、国税に関する法律に別段の定めがあるものを除き、その国税の納期限から五十日以内に発するものとする。
 3 第一項の督促をする場合において、その督促に係る国税についての延滞税又は利子税があるときは、その延滞税又は利子税につき、あわせて督促しなければならない。

なお、市民税の場合は地方税法331条1項(差押え)、329条1項(督促状)です。(固定資産税などは別に規定あり。)

さて、文言だけだと眠くなるし、わかりづらい(笑)ので次に概要を書いていきましょう。

2 実は差押の条件は2個のみ

(1)条件
国徴法47条は、国税徴収法の最重要法令の一つです。
ですが、内容はシンプルなもので、差押えには2つの条件が必要だとわかります。

①滞納者が督促状を送達されたこと
②督促状を発した日から起算して10日を経過した日までに完納しないこと

です。

意外とシンプル!

法律用語の「した」という言葉を説明するとそれだけで手間なので、「4月1日に発したら、4月12日が差押可能」と捉えてもらえばよいかと思います。(土日は考慮せず。)

では、督促状はいつ発布されるかを読み解きます。
国税通則法37条2項の通り、別の規定がある場合を除き「その国税の納期限から50日以内」に発布されます。

「以内」なので、原則、納期限翌日を1日目として50日のどこかで発布されます。
マニア向けですが、国税徴収法の67回試験でもあったとおり、納期限の翌日から督促状は発布できます。(実際、原則以外の差押でそれを行うケースが有ります。)

一応参考までに、以下のケースも有効だそうです。50日までに送り忘れれば一生滞納処分を受けることはないというわけでもなさそうです。
・50日を経過した以後に発布された督促状も有効 ※徳島地判S30.12.27ほか裁決など

(2)条件は2個しかないので他は不要という事実を知っておくこと

「税務署は差押を半年は行わないんでしょ」とか、
「差し押さえる前に予告が届くんでしょ」とか、
「差押前に一度も連絡をくれないのはありえない」色々な主張をする方が居ると思います(私の友人も言っていました。)が、上述の通り、

 ①滞納者が督促状を送達されたこと
②督促状を発した日から起算して10日を経過した日までに完納しないこと

だけ満たせばいいので、「督促状が届いて半月も放置すると、差し押さえられる可能性がある」ということに留意しておく必要があります。

3 「逃げ得」は認められるか

さて、2で書いた条件をしっかり読み込むと察しの良い方は気づいたと思いますが、

「では、『督促を受け』なければいいんでしょ。
 『郵送物が届いていない』と主張すればいいんだよ。」
とか、

「督促状が届かないように、引っ越せばいい。」とか、考える方がいると思います。

残念ながら、対策はされています。

(1)届かないという主張は基本的には認められない
以下の興味深い裁判例 の解説が有ります。

重要なポイントは2つ。

 ① 通常の郵送物は(普通郵便でも)届いていると推定される
 ② 届いていないことを納税者が立証(反証)しなければならない

「推定」というのも法律用語ですが、簡単にいうと「届いてないかわからないときは、届いていると判断する」ということです。

税務署(自治体)側に有利な判決では有りますが、さすがにこれはやむをえないと思います。

恐らく、届いていない立証を税務署にさせると、

 ① コストが膨大になる(全員書留で送るわけには行かない)
 ② 税金不払いの逃げ得(届いていないと主張すれば税金を払わなくて良い)が増える
 ③ 日本の普通郵便の質はそこまで低くない

ことが原因なんだと思います。
確かに、届かない主張で税金を納めなくていいなら、模倣犯が多発すると思います。単に秩序の維持といえるでしょう。

当然、税務署等が届かないとわかる住所に督促状を送った体で差し押さえるのは違法なので、反証できれば差し押さえをされることは無いと思います。

(2)行方不明のときは「公示送達」

海外に行って住所がないケース、行方不明になってしまったケースなども想定されると思います。
この場合に使われるのが「公示送達」です。

公示送達の法文を見てみましょう。

国税通則法(抄)
(公示送達)
第十四条 第十二条(書類の送達)の規定により送達すべき書類について、その送達を受けるべき者の住所及び居所が明らかでない場合又は外国においてすべき送達につき困難な事情があると認められる場合には、税務署長その他の行政機関の長は、その送達に代えて公示送達をすることができる。
2 公示送達は、送達すべき書類の名称、その送達を受けるべき者の氏名及び税務署長その他の行政機関の長がその書類をいつでも送達を受けるべき者に交付する旨を当該行政機関の掲示場に掲示して行なう。
3 前項の場合において、掲示を始めた日から起算して七日を経過したときは、書類の送達があつたものとみなす。

なお、地方税法は20条の2です。

長くなったので細かい内容は省きますが、

 ① 行方不明で相手に届く見込みがないと判断できた
 ② 必要事項と、いつでも文書を渡せる旨記載して掲示板などに張り出した
 ③ 掲示して7日経過した

の3つを満たすと、本人に届かなくても送達があったことにできます。
(法律用語「みなす」については説明を省きますが、「実際には届いていないけど、法律上届いたこととする」という意味になります。)

公示送達の「7日を経過した日」を1日目として12日目から差し押さえの対象になってくるわけです。

4 まとめ
法律の話を伝えようとすると文量がどうしても長くなりますね。 でも、「差押の要件」で本当に重要なのは2つだけです。

 ①滞納者が督促状を送達されたこと
②督促状を発した日から起算して10日を経過した日までに完納しないこと

です。

例えば、3月15日の所得税の納付について、督促状の送り忘れなどを除き、

①50日目に督促状発布(5月4日、土日は考慮せず。)
②発布した日から10日を経過した日までに完納しない(5月14日(11日目)までに完納しない)

→ 5月15日から差押可能。

と、税務署が法律どおりに、最も遅くまで督促状を送付しなくても、「2ヶ月もあれば差押可能」になるわけです。

これが地方税法になると上述のとおり、原則「20日」とあるため、「納期限の1ヵ月後くらいには差押可能」というわけですね。

1ヶ月で差押とすると、ちょっと遅れるとすぐ差し押さえの対象になりえるわけです。
納付し忘れた人もいるでしょうから、税務署の担当さんもいきなり差押えることは無いと思いますが、普段納付している人でも意外と対象になりえていることに気づいてもらえればと思います。

国徴法受験者なら知っていると思いますが、逆にもっと早い段階での差押えとして、「督促状の送付を不要とした差押え」や、「10日なんて経過しなくても可能な差押え」もあります。

こちらは、受験生向けの内容が多いので、余力があったら書いてみたいと思います。

差し押さえは、2つの条件だけで可能になるのですが、つきつめると色々な裁判例や裁決が出てきて奥深い分野です。

受験生にとっては「差押の要件」は最重要項目の1つで、丁寧に理解していると29年(67回)みたいに、大きく差をつけることができる問題なので、これを期に知ってもらえると幸いです。

次回はどうしたものか。

身近なところで、「差押で狙われやすい財産」辺りでも書いてみますかねぇ。

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