【国徴法小話6】変わった金銭の差し押さえ

税金の話

今日は、娘と妻と買い物に行きます。
下に書くとおり、かさを買いにいくことになりそうです。

●今日の娘

今日は娘が「きょうは ママと かさやさんに いくんだよね」と。
妻に話を聞くと、保育園でお友達が傘を持っていたので欲しがっていたようです。

おしゃれが好きになってきた3歳0ヶ月です。
あとで買いにいきます。

さて、本題。

今回も土曜日は国税徴収法の小ネタです。
解釈としての論点なので、出題可能性はまずないでしょう。

ただ、動産又は有価証券の差押の論点としてはベタ書きの頻出論点。
現金の差し押さえについて。

現金といっても、1万円札を発見して滞納国税に充当するような案件は条文通りでいけますが、変わったものもいくつかあります。

今日のゲスト法律は、「通貨の単位及び貨幣の発行等に関する法律」と、「小額通貨の整理及び支払金の端数計算に関する法律」です。

エラーコインも恐らくアンティーク

現金の差し押さえ

まずは論点のおさらい。

国税徴収法において、現金は、「1 動産又は有価証券」に区分されます。

動産の差し押さえの中でも特殊な扱いを受けます。
「差押えた時点で、滞納国税に充てる」ことになります。

国税徴収法 第56条(抄)
3 徴収職員が金銭を差し押えたときは、その限度において、滞納者から差押に係る国税を徴収したものとみなす。

おそらく法律を作った人は、徴収官のおじさんが小売店のレジの前に張って、

「その現金、差押えます。 はい、差押調書。」

みたいなものをイメージしていたのでしょう。
ただ、そんな「現金」の中にもさらに変り種があるようです。

Yahoo官公庁オークションにて

Yahooにはオークションサイト「ヤフオク」の片隅に、官公庁の物品や差押えた動産等を扱っている「Yahoo!官公庁オークション」があります。

時々面白いものが出ているのですが、それはまた別の回にでも記事に。

私は現物をみたことはないのですが、伝え聞くところ、このオークションで「記念硬貨」を見た方がいるようです。

「記念硬貨は現金ではないのか? そうすると公売する前に滞納国税に充てることとなるのではないか」

となるわけですね。
運用を考えてみましょう。

特殊な現金の取り扱い

外貨

今回はここだけ基本通達による方向性が定められています。

国税徴収法基本通達56-8(最後の参考法文参照)によると、

まず、動産として差押え、
次に、速やかに日本円に両替する。

という手順のようです。

現金以外の外貨建て資産(例えば米国通貨建の生命保険等)を差押えた時も、換価(債権なら取立て)で外貨となった場合は、同じように円に換えて滞納国税に充てることになるでしょう。

なお、為替スプレッド(手数料)の内訳が明示されていたら、配当計算の順位をつける際に「直接の滞納処分費」を考慮すると思われます。

古銭

次、「古銭」はどうするか。

「慶長小判」や「寛永通宝」、「10銭硬貨」なども広い意味では現金です。
古銭を差押えたら、「差押えにかかる国税を徴収したものとみなす」のでしょうか。

結論としては「No」。
理由としては、「現時点で現金として使えないから」です。

現在、1円未満(銭とか厘とか)のお金は使えません。(言わずもがな、計算上は使いますが。)

法的根拠としては、小額通貨の整理及び支払金の端数計算に関する法律(通称:小額通貨整理法)にあります。1953年12月末日にこれらの円以外の補助通貨等は廃止されたようです。(小額通貨整理法2条及び3条。参考法文を参照ください。)

したがって、現行では単なる「動産」止まり。
アンティークとして、公売(オークションなど)に出ることになります。

実際、古銭は官公庁オークションでもたまに見かけます。

記念硬貨

では、最後に「記念硬貨」は結局どうなるのか。
私は実物を公売で見たことはないですが、過去に目撃例があるようなのです。

古銭と違い、「通貨の単位及び貨幣の発行等に関する法律」5条2項に、「国家的な記念事業として閣議の決定を経て発行する貨幣」という規定があるため、「現金」として使用することはできます。
そして、基本通達にも方針がありません。

法令ではなく、若干の推測も入りますが、

「違法かはグレーだけど、現金価値より高く売ることが想定されるから、納税者にも有利だし許容」しているのではないかと思います。

つまり、納税者は額面より税金が減る、国税もたくさん徴収できる、プレミアムがつくけど落札者もプレミアムコインを国税のものにされない、と三方両得の動きになります。

なぜ、立法により検討されなかったのか。

これも推測ではありますが、国税徴収法が出来たのが1959年。
今では割と発行される記念硬貨が、最初に出たのが1964年、東京オリンピックの時(100円、1,000円銀貨)です。

そのため立法時の法制執務担当が、「まさか、こんな通貨が出るとは思わなかった。」というのが背景にありそうです。

捜索(国徴法142条)時に出てきた記念硬貨に、
滞納者が「これは現金だ。」と宣言した場合は滞納国税に充てることが出来るのかもしれません。

・・・ないでしょうね。

②でも、明治に出た20円金貨などはアンティークコインとして処理すると思います。
滞納国税に20円として充てたら、いくらなんでも可哀想。

なにせ、20円金貨、こんな金額になるんです。

①と②の合わせ技の外国政府発行の記念コインも価値で判断すると思います。
(公売手数料を差し引いてプラスになるなら公売、そうでなければ日本円に変えて滞納国税へ充当。非常に無難。)

まとめ

今回は「差押えた金銭」の話。

今日は法文がないので、非常にゆるい回になってしまいました。
まさにコーヒーブレイク要員です。

このように法文対応が困難な案件は、国税も法文に依らず運用で処理するのでしょう。

重要なのは3点(若干推測もあり。)

・外貨は日本円に速やかに替えた後、現金として滞納国税に充当
・古銭は現在つかえない
・記念コイン等の価値が高いものは、グレーではあるが公売で処理

参考法文

国税徴収法(抄)

(差押の手続及び効力発生時期等)
第56条 動産又は有価証券の差押は、徴収職員がその財産を占有して行う。
2 前項の差押の効力は、徴収職員がその財産を占有した時に生ずる。
3 徴収職員が金銭を差し押えたときは、その限度において、滞納者から差押に係る国税を徴収したものとみなす。

国税徴収法基本通達(抄)

(外国通貨)
56-8 外国通貨(本邦通貨以外の通貨。外国為替及び外国貿易法第6条第1項第4号)は、動産として差し押さえる。この場合において、徴収職員は、速やかに、差し押さえた外国通貨を本邦通貨と両替した上、金銭を差し押さえた場合と同様に処理する(23、24参照)。
(注) 本邦通貨とは、日本円を単位とする通貨をいう(外国為替及び外国貿易法第6条第1項第3号)。

小額通貨の整理及び支払金の端数計算に関する法律(抄)

(目的)
第1条 この法律は、最近における取引の実情に即応し、一円以下の臨時補助貨幣並びに一円未満の貨幣、小額紙幣及び日本銀行券を整理するとともに、一円未満の通貨の発行を停止することとし、これに伴い、現金支払の場合における支払金の端数計算の基準を定めて取引の円滑化に資することを目的とする。

(定義)
第2条 この法律において「小額補助貨幣」とは、左の各号に掲げるものをいう。
 一 貨幣法(明治三十年法律第十六号)の規定により政府が発行した貨幣のうち額面価格が五十銭以下のもの
 二 貨幣法第十七条の規定により通用を認められた貨幣
 三 臨時通貨法(昭和十三年法律第八十六号)の規定により政府が発行した臨時補助貨幣のうち額面価格が一円以下のもの
(略)

 (小額通貨の通用禁止及び引換)
第3条 小額通貨は、昭和二十八年十二月三十一日限り、その通用を禁止する。
(略)

通貨の単位及び貨幣の発行等に関する法律(抄)

(貨幣の種類)
第5条 貨幣の種類は、五百円、百円、五十円、十円、五円及び一円の六種類とする。
2 国家的な記念事業として閣議の決定を経て発行する貨幣の種類は、前項に規定する貨幣の種類のほか、一万円、五千円及び千円の三種類とする。
3 前項に規定する国家的な記念事業として発行する貨幣(以下この項及び第10条第1項において「記念貨幣」という。)の発行枚数は、記念貨幣ごとに政令で定める。

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