所得税の二分二乗方式について考える

税金の話

我が家は、夫婦共働き。
共働きは税制上有利とありますが、海外では共働きでなくても世帯単位で税制上優遇する制度を採用する国があります。

1人が稼ぎ、1人がその環境を支援する。
そのため、所得は2人で稼いだものとし、「所得を半分にして税額計算」を行う。
その「税額を2倍」にして夫婦の税額として納付する「二分二乗」の制度です。

アメリカやドイツ、そして世帯人数(N人)で割り返す「N分N乗」方式などで採用されています。

(参考:財務省

今回は、二分二乗の所得を日本で採用したらどの程度の税額がかわるかを検討してみることにしました。

二人で家庭を作る、「二分二乗」は面白い制度だと思います。議論が活発になってほしい。

二分二乗方式とは

定義を追いましょう。

課税単位の一種で、夫婦単位合算均等分割制ともいう。
夫婦の所得を合算してその2分の1に相当する金額に税率を適用し、算出された税額を2倍したものをその夫婦の所得税とする方法。
これは現在の所得税が所得の稼得者を単位として課税されているため,夫婦の一方だけが働いている世帯と両方が働いている世帯とでは,その世帯の所得の合計額が同額であっても累進税率の関係から前者の税負担が大きい。
そのため前者の税負担を軽減してバランスをとろうとする方式である。

コトバンク(二分二乗制

これらは、夫婦の収入は2人の力で稼いだものという「内助の功」を評価するという意味合いも込められているといえるでしょう。

独身の方が税額が高く出る傾向であり、婚姻の自由(憲法24条)を阻害するという見解もあるようです。

一方で、「二分二乗方式が採用されていないことが憲法第24条に違反する訳ではない」という見解を示した最高裁判例(最大判S36.9.6)があり、転じて「二分二乗方式の採用したとすることが憲法24条に合憲でないとはいえない」と対偶で解釈しても良いかもしれません。

検討

二分二乗方式を用いた税制における所得控除額、税率を同様のものを使うとは限りませんが、実際どうなるものかを検討。

●モデルケース

・対象世帯は、サラリーマンとします。
 そのため事業専従者控除、青色専従者給与は考慮しません。
 (青色専従者給与が使い方次第で二分二乗に近いことができるため、比較に不適と判断)

・年収を1000万円のケースで検討
・概算として収入の15%を社会保険料控除
・二分二乗方式に限り、過大に優遇(控除)しないように、
 ①社会保険料控除は半分(控除額の効果が倍になるため)
 ②配偶者控除は無し(所得を2分している時点で控除相当と判断)
 と調整します。
・他の所得控除は考慮しない

ケース1 ひとりで働く場合(現行制度)
ケース2 夫婦の場合(共働き)
ケース3 夫婦の場合(二分二乗方式)
で検討しましょう。

「共働き」「二分二乗方式」の違い」は、「収入を半分にする」「所得を半分にするか」の違いです。

優遇措置の有無と所得控除の仕組みから、ケース1>ケース3>ケース2になるかと思われますが、どれくらい税額がかわるかも含め実際に計算しましょう。

ケース1 ひとりで働く場合(現行制度)

一応サラリーマンの稼ぎとして、配偶者控除としています。

①所得金額
 給与収入 1,000万円
 給与所得控除 195万円
 給与所得 1,000万円-195万円=805万円

②所得控除
 社会保険料控除 150万円
 基礎控除 48万円
 配偶者控除 38万円
 所得控除額計 236万円

③ ①-②=569万円

④ 課税額 569万円 × 20% -427,500円 =710,500円

ケース2 夫婦の場合(共働き)

収入半分で2名のケース。
1人分を計算し、最後に2倍します。

①所得金額
 給与収入 500万円
 給与所得控除 500万円×20%+44万円=144万円
 給与所得 500万円-144万円=356万円

②所得控除
 社会保険料控除 75万円
 基礎控除 48万円
 所得控除額計 123万円

③ ①-②=233万円

④ 課税額 233万円 × 10% -97,500円 =135,500円

⑤ ④×2人分=271,000円

ケース3 夫婦の場合(二分二乗方式)

1名の所得を半分にするケース。

上述のとおり、社会保険料控除は据え置き。
配偶者控除を残すのは流石に過大に優遇しすぎなので除外します。

①所得金額
 給与収入 1,000万円
 給与所得控除 195万円
 給与所得 1,000万円-195万円=805万円

 所得二分 805万円 ÷ 2 = 4,025,000円

②所得控除
 社会保険料控除 150万円÷2=75万円
 基礎控除 48万円
 所得控除額計 123万円

③ ①-②=2,795,000円

④ 課税額 2,795,000円 × 10% -97,500円 =182,000円

⑤税額2乗 182,000円 × 2 = 364,000円

予想通り(1)>(3)>(2)となりましたが、

(1)710,500円
(2)271,000円
(3)364,000円

と、配偶者控除しか受けられない片働きの人は、税額が数十万円増える仕組みになっています。

モデルケースの設定時に触れましたが、必要経費や所得控除で「青色専従者給与」「事業専従者控除」という制度があり、配偶者の給与(分)を必要経費とできる(所得から控除できる)ため、二分二乗制度に近い所得税申告が可能であるため、政党に手続きするならば、このような不遇を受けているのは「サラリーマンのみ」と言えそうです。

問題点

前項で実際に検討してみたところ、二分二乗制度のいくつか気づいたところを整理。

①現行制度で一人で働くと税負担がかなり大きい
②共働きは一番手残りが多い一方・・・
③採用するなら社会保険料控除額が2倍になるなどの控除額を考慮すべき

④戦略的結婚という選択肢(仮装行為)の懸念

①現行制度で一人で働くと税負担がかなり大きい
現行制度では、一人で働くと共働きや二分二乗方式に比べてかなり重税となっています。

これは「配偶者控除くらいしか控除できるものが無いため」です。
政策的に「女性の社会進出」というキーワードなどで、「共働きを推奨している」ので改善されていくことは無いと思います。

良い政策かどうかは不明ですが、「共働きの方が税制上優遇される」のは間違いありません。
また、現行と変わらないものの、独身者の方が重税感があるように思います。

②共働きは一番手残りが多い一方・・・
一見、良い事ずくめの「共働き」。

我が家がそれに該当(共にフルタイム。)します。

税的負担は少ないのかもしれませんが、とにかく「時間が無い」。
保育園は朝7時から夜19時まで。保育園の先生より長い時間通わせていて、娘にも負担をかけています

土日も、片方が仕事しやすいよう片方が面倒見ることも多かったり。
労働に体力・気力をすべて持っていかれているような気がするため、共働きも良し悪しといえます。

個人的には二分二乗方式の方が、夫婦どちらかがエネルギーを割けばいいので、社会的負担は減ると思います。SDGsなどの持続的な成長(おそらく8)を目指す際の一つの答えになるかもしれません。

③社会保険料控除額が2倍になるなどの控除額を考慮すべき

万一採用するに際し、技術面も考慮。
二分二乗は「所得を半分」にして計算するため、所得控除額は検討したほうが良いかもしれません。

計算では考慮しましたが、所得を半分にするので「所得控除を据え置けば倍の効果」が出てしまうこと、「配偶者控除は二重控除」のように思います。
現行性を活かすなら、この辺りを考慮する必要があるでしょう。

④戦略的結婚という選択肢(仮装行為)の懸念
なお、「独身は二分二乗の恩恵が無い」ため、税的メリットのために結婚をする人が出る可能性があります。

税法では「行為計算の否認」という考え方があります。
節税目的で、事実を曲げて制度を悪用することを嫌います。

そのため、課税額を減らすための結婚が懸念される、二分二乗方式を採用しにくいという側面があるのかもしれません。(ただ、仮装行為は他にも多数該当する問題はあり、二分二乗だけが問題ではない。)

まとめ

今回は「二分二乗」の制度について考えてみました。
個人的には採用してもいいような気がします。

一時期、「主婦業を時給に換算」というようなワードがあり、二分二乗はそういう人の価値を含めた年収という捉え方に近く思います。
(個人的には、「主婦業を時給」にするならば、業務を購入してくれるお客さんを探す営業活動の時給が含まれていないため色々思うところがありますが・・・。)

ただ導入には、法解釈、制度、税収などの点で多数問題が山積みなので、実現は困難だと思います。
検討材料として若者世帯の支援を考えてもらいたいものです。

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