【国徴法小話10】給与の差押えについて(1)

税理士試験(大学院以外)

ここ最近、税理士試験が近づいて、過去に書いた国税徴収法に関する記事が地味に閲覧数が増えた気がします。この時期限定なので、たまには国徴法の記事でも書いてみようと思いました。

今日は、「給与の差し押さえ」について。
税理士試験の国税徴収法の出題では割と定番ですが、細かな論点も多いです。

関連法規は「民事執行法」。
突き詰めると「滞調法(滞納処分と強制執行等との手続の調整に関する法律)」「供託法」も関連してきますが割愛。

長くなりすぎたので2回に分け次回に。

「給与の差押え」の概要

経理担当の方が事務をする際に、従業員さんが税金の滞納をしていると、税務署(自治体)から問い合わせが来ることがあります。

これらの照会文書に「国税徴収法141条の規定による。」等の記載があった場合、「対象者」の税金の未納に関する問い合わせの可能性が高いです(一応、本人ではなく関係者の場合もある。)。
税金の未納の有無で、従業員さんに不利な取扱をしてはいけないとはわかるけど、給与の差押えをされた従業員は、「イメージ」が悪くなることを否めません。

国税徴収法上の取扱い

さて、国税徴収法の話なので国税側の立場に戻りましょう。

差押え(国税徴収法)をするうえで、「給与」は、財産分類上「債権」に区分されます。
差押えの手続きとしては、給与支払者(第三債務者)へ「債権差押通知書」の送達です。

税務署がやること(税理士試験でいうなら柱上げ)を整理すると、

 ・債権の差押え
  ①差押通知書を第三債務者に送達
  ②差押調書を作成し、その謄本を本人(質権等があれば関係者)に交付
 ・債権の取立て
 ・継続債権の差押え

 ・債権の差押えの範囲
 ・差押解除

等が挙げられます。

差押禁止額

給与の差押えは76条で、差押禁止財産(75条)の次に規定されています。
(地方税では条文はなく、国税徴収法を準用。)

給与支給額に対し一定の差押禁止額を定め、差押禁止額が支給額を上回った時点で差押え(厳密には取立)できません。

一方で「売掛金」「給与」と異なり、売掛金に差押禁止額の計算は必要ありません。

次に、「差押禁止額」について。

差押禁止額は、国税徴収法76条1項に定められており、
 ①源泉所得税
 ②特別徴収住民税
 ③社会保険料等
 ④最低生活費
 ⑤体面維持費

に分けられます。

支給額(千円未満切捨)と①~⑤(各千円未満切上)の合計額の差額が、差押可能額となります。

試験では計算問題で出題されていたことがありましたが、最近出題されておりません。
もし、計算練習をするなら、自治体などで準備しているExcelがあり、参考にできると思います。

法文・基本通達による各解説

給与差押えも、細かな取り扱いが多いです。
主に基本通達から。いつもどおり、あまり細かい部分は端折ります。

参考: 国税徴収法基本通達76条関係

①源泉所得税について

1号部分。
「所得税の源泉徴収部分」です。

徴収漏れ等、後日別の月に控除した場合(2カ月分控除するイメージ)の額も、その月の差押え可能額の計算に含まれるようです。(基本通達76—5)
滞納者の「手取り金額」を重視していると思われます。

②住民税について

2号部分。
個人住民税の「特別徴収額部分」です。

天引きされる住民税も差押禁止額になります。
なお、同じ住民税でも普通徴収(納付書などでの支払い)は含まれません。(基本通達76-6)

例:
6月分の給与で、

 ・特別徴収税額が6月分8,300円
 ・普通徴収(納付書や口座払い)(6月30日納期限)が34,800円

の場合、普通徴収(後者)は無視し、2号の差押禁止額は9,000円(千円未満切り上げ)となります。

③社会保険料等について

経理担当からすると「社会保険料等って、どこまで範囲なの?」と疑問に思う方が居ると思います。
これも、基本通達で解説されています。(基本通達76-8)

試験で新たに問うとするならこのあたりになると思います。
社会保険料、国民年金保険料、介護保険料とともに労働保険料なども該当します。

当たり前と言えば当たり前ですが、給与から天引きされるお金でも、「財形積み立て」や「組合費」のようなものは対象外です。
計算問題を出題されると、1つの誤りで0点になりかねないので、受験される方は基本通達76−8でどういったものが該当するかを流し読みしておく(暗記は不要かと。)価値はあると思います。

④最低生活費

4号部分。
国税徴収法では、滞納者の最低生活費として、

 ・本人分として10万円
 ・本人と生計を一にする配偶者、その他の親族 1人当たり45,000円

を差押禁止としています。(76条、金額は施行令34条)

これらの最低生活費、毎月同日に給料を支払う法人なら良いのですが、特殊な給与形態の人も少なからず居ると思います。特殊なケースの給与には以下のような取り扱いをしているようです。

イ 年金

「年金も給与とみなされ」差押の対象になります。(77条)

公的年金は、通常「2ヶ月に一回支給される」ことから基本通達76-12により、前回支給日から換算して2ヶ月分で計算(基本通達を読む限り61日/30日?)することになると思われます。

ロ 賞与(ボーナス)

賞与は、基本通達に取扱いの記載があります。(基本通達76—13)
「普通の給与と合わせて計算する(最低生活費は1カ月として計算)」します。

したがって、「通常の月で差押額ゼロでも、ボーナス月は差押え可能となる」ことが想定されます。

ハ 退職金

退職金の計算は、本法上に記載があります(76条4項)
「最低生活費を3倍+5年を超える年数×0.2倍」で計算します。

年数の端数は切り上げ(基本通達76—14)

例:8年3カ月勤務、本人と生計同一の妻で暮らしている。
 3倍 + (8年3月 - 5年 = 3年3月 → 4年)×0.2倍=3.8倍
 4号の額 (100,000円+45,000円)×3.8倍=551,000円

ハ 週払い給与等

月払いではなく、日払いや週払いの給与なども、基本通達に取扱いがあります。
「前の支給日」からの日数で計算します。
1月は30日として計算し、毎週金曜日の給与支払の場合は30分の7となります。(基本通達76—12)

ニ 「生計を一にする親族」とは

計算してみるとわかる通り、相当の給与の額でなければ「生計同一者の人数」が差押可能額に大きく影響を及ぼします。

 ・扶養の人数をどう捉えるべきか
 ・住民票の世帯の人数と捉えるべきか

など、「生計を一にする親族」の範囲が大切になります。
明確に「生計を一とは、〇〇の人数」という記載はありませんが、基本通達に考え方が載っています。

「生計を一にする親族」とは、
「有無相助けて日常生活の資を共通にしていること」をいい、
「納税者がその親族と起居をともにしていない場合においても、常に生活費、学資金又は療養費等を送金して扶養しているときは、生計を一にするもの」
としています(基本通達37-6,75-2)。

したがって、明確に生計を別にしている裏付けがある場合を除き、

 ・同居している親族
 ・別居中の息子・娘(生活費を仕送りしている)

は対象となります。

所得税法の配偶者控除・扶養控除の「生計を一にする」とは若干範囲が異なるように思います。

⑤2社からの給与を差し押さえた時

過去に試験で出題されたことがある内容です。
2社以上の給与のときの取扱いは、基本通達に2つの方法が書かれています。(基本通達76-9)

テストに出るのは按分する方です。恐らく理解していないと計算できないからだと思います。
計算は、私の解説より基本通達や予備校のテキストを読んだ方が早いと思うので割愛。

概要としては、4号(最低生活費)と5号(体面維持費)は、
 イ 2社の合計給与から4号と5号を計算
 ロ 各社の1~3号の控除後の額で按分(千円未満切り上げ)

となります。
なお、端数調整の関係で最大2,000円(4号と5号で1,000円ずつ)、差押禁止額が増えます。

按分法だと、2社の給与、源泉税等を貰って後に第三債務者(給与支払者)に取立額を伝えることになるため、大変煩雑なものなので実用的とは思えません。

⑥その他

その他の論点。

基本通達76—1にある通り、「通勤手当等」も国税徴収法76条の「給与」に含まれます。実は、裁判所が行う民事上の差押えを規定している「民事執行法」と範囲が異なります。

とはいえ、強制執行の金額を計算させることは、関連法規ですが試験範囲から大きく外れるため、出ないでしょう。

他には、「滞納者の承諾を受けた場合」は、これらの差押禁止額を越えて差押可能です(基本通達76-16)。

冗長になったので、第三債務者の話について書こうと思いましたが次回に。

●まとめ

 ・給与は債権として差し押さえる
 ・差押禁止額があり差押できない場合がある

今日は、他法より国税徴収法メインに。
次回はここから少し発展させて考えたいと思います。

●参考法文

今日は基本通達が主役になっています。

給与の差押えは基本通達での取扱がメインといえます。

■国税徴収法基本通達(抄)

(生計を一にする)
37-6 法第37条第1号の「生計を一にする」とは、有無相助けて日常生活の資を共通にしていることをいい、納税者がその親族と起居をともにしていない場合においても、常に生活費、学資金又は療養費等を送金して扶養しているときは、生計を一にするものとする。
 なお、親族が同一の家屋に起居している場合には、明らかに互いに独立した生活を営んでいると認められる場合を除き、これらの親族は生計を一にするものとする。

(生計を一にする親族)
75-2 法第75条第1項第1号の「生計を一にする」については、第37条関係6と同様である。
なお、法第75条第1項第1号の「その他の親族」とは、滞納者の六親等内の血族及び三親等内の姻族(民法第725条)のうち、滞納者と生計を一にする者をいい、縁組の届出はしていないが、滞納者と事実上養親子関係にある者は、「その他の親族」と同様に取り扱うものとする(執行法第97条第1項参照)。

■国税徴収法(抄)

(継続的な収入に対する差押の効力)
第66条 給料若しくは年金又はこれらに類する継続収入の債権の差押の効力は、徴収すべき国税の額を限度として、差押後に収入すべき金額に及ぶ。

(給与の差押禁止)
第76条 給料、賃金、俸給、歳費、退職年金及びこれらの性質を有する給与に係る債権(以下「給料等」という。)については、次に掲げる金額の合計額に達するまでの部分の金額は、差し押えることができない。この場合において、滞納者が同一の期間につき二以上の給料等の支払を受けるときは、その合計額につき、第四号又は第五号に掲げる金額に係る限度を計算するものとする。
 一 所得税法第百八十三条(給与所得に係る源泉徴収義務)、第百九十条(年末調整)、第百九十二条(年末調整に係る不足額の徴収)又は第二百十二条(非居住者等の所得に係る源泉徴収義務)の規定によりその給料等につき徴収される所得税に相当する金額
 二 地方税法第三百二十一条の三(個人の市町村民税の特別徴収)その他の規定によりその給料等につき特別徴収の方法によつて徴収される道府県民税及び市町村民税に相当する金額
 三 健康保険法(大正十一年法律第七十号)第百六十七条第一項(報酬からの保険料の控除)その他の法令の規定によりその給料等から控除される社会保険料(所得税法第七十四条第二項(社会保険料控除)に規定する社会保険料をいう。)に相当する金額
 四 滞納者(その者と生計を一にする親族を含む。)に対し、これらの者が所得を有しないものとして、生活保護法(昭和二十五年法律第百四十四号)第十二条(生活扶助)に規定する生活扶助の給付を行うこととした場合におけるその扶助の基準となる金額で給料等の支給の基礎となつた期間に応ずるものを勘案して政令で定める金額
 五 その給料等の金額から前各号に掲げる金額の合計額を控除した金額の百分の二十に相当する金額(その金額が前号に掲げる金額の二倍に相当する金額をこえるときは、当該金額)
2 給料等に基き支払を受けた金銭は、前項第四号及び第五号に掲げる金額の合計額に、その給料等の支給の基礎となつた期間の日数のうちに差押の日から次の支払日までの日数の占める割合を乗じて計算した金額を限度として、差し押えることができない。
3 賞与及びその性質を有する給与に係る債権については、その支払を受けるべき時における給料等とみなして、第一項の規定を適用する。この場合において、同項第四号又は第五号に掲げる金額に係る限度の計算については、その支給の基礎となつた期間が一月であるものとみなす。
4 退職手当及びその性質を有する給与に係る債権(以下「退職手当等」という。)については、次に掲げる金額の合計額に達するまでの部分の金額は、差し押えることができない。
 一 所得税法第百九十九条(退職所得に係る源泉徴収義務)又は第二百十二条の規定によりその退職手当等につき徴収される所得税に相当する金額
 二 第一項第二号及び第三号中「給料等」とあるのを「退職手当等」として、これらの規定を適用して算定した金額
 三 第一項第四号に掲げる金額で同号に規定する期間を一月として算定したものの三倍に相当する金額
 四 退職手当等の支給の基礎となつた期間が五年をこえる場合には、そのこえる年数一年につき前号に掲げる金額の百分の二十に相当する金額
5 第一項、第二項及び前項の規定は、滞納者の承諾があるときは適用しない。

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