前編は「コロナ特例」の件をメインに納税の猶予と換価の猶予の違いについて書いてきました。後編を切り分けて、若干受験生向きに。
納税の猶予(換価の猶予)の制度は、
今年の国税徴収法の試験の本命だと思います。
(個人的には、あからさま過ぎて出ないか、小問くらいと予想。)
国税徴収法(国税通則法)において、差押えは税理士になった後にそうそう縁があるものではないですが、猶予制度は災害等で時々かかわる論点なので一度精査する機会が必要でした。
そこで、2年半ぶりくらいに理論サブノートを読み返してみることにしました。
前回の内容のとおり、「納税(徴収)の猶予のほうが有利」です。
どのように有利かを、違いと共通点でつかんでいきましょう。
【重要】
なお、コロナ特例は4月30日施行。
税理士試験の要項2ページによると
「今回の試験で適用すべき法令等は、令和2年4月3日(金)現在施行のもの 」とのことなので、コロナ特例は無視してかまいません。
当然、納税の猶予・換価の猶予は本命論点であることは変わらず、予備校でも間違いなく警戒していると思います。
それでは、違いを整理。
かなりマニア向けな要素もありますが、受験生なら役立つかもしれません。
目次
納税の猶予と換価の猶予の違いと共通点
根拠法文が国税通則法と国税徴収法【違い】
実は、納税の猶予は国税通則法(46条~)、換価の猶予は国税徴収法(152条~)に根拠既定があります。(試験対策でいうなら、保全差押【徴収法】と繰上保全差押【通則法】との関係に似ています。)
そのため、国税徴収法の試験勉強の際に原文を探そうとしても見つからない。(当時、私もしました。)
どちらも「通則法」に載せなかったのはなぜなのかは不明です。
特例要素が強いほうを徴収法に載せたのでしょうか。
そうだとしても繰上保全差押も納税の猶予も滅多に見ない内容で謎は深まるばかり。
なお、地方税は地方税法(15条~と15条の5~)と総則の章で統一されています。
新たな差し押さえ【違い】
換価の猶予の場合は、「換価」を猶予されるだけです。
理屈上ではありますが「新たな差し押さえ」がありえます。
とはいえ、恐らく実態はあくまで表向き。
猶予申請を出している時点で、放置している人よりはるかに納税に対する誠意があると思われます。
担当の心情としても、相応の理由が無ければ猶予申請せずに納税を無視した人から処分するのではないでしょうか。
よっぽど悪質なケースか、信用がない場合を除き、担保の提供はともかく、猶予中の納税者に新たな差し押さえをしないのではないかと思われます。
差し押さえの解除【違い】
差押えの解除についても違いがあります。
・納税の猶予の場合は、納税者の申請により猶予以前に行った差し押さえ(猶予後は(2)のとおりできない)の解除を納税者が申請出来ます。
(48条 税務署長等が職権で解除できる規定がないので、納税者の申請は必須かも。)
・換価の猶予は事業の継続、生活の維持が困難になる財産の差押を、税務署長の職権で解除することがあるようです。
なお、どちらも税務署長がNGを出したら、差押解除されません。
(差押中に納税の猶予制度等を出すこと自体、激レアケースなのではないでしょうか。
実際に税務署長がNGを出すかは不明です。)
果実の換価【共通】
試験向き論点。
「果実」とは、民法用語で、みかんの木を差押えた時に生じたみかんや、不動産を差押えた時の家賃などのこと。租税法でも借用概念として使われています。
今回は猶予を受けたときの果実の取り扱い。
(3)のとおり、差押中(=滞納時)の猶予があまりないため、実務上は皆無。
コロナに基づいて猶予申請をするような方ならばなおのことです。
なお、納税の猶予、換価の猶予共に共通。
・金銭(法定果実?)は直接税金に充てることができる。
(できる規定なので税務署と調整でお目こぼしは可能?)
・それ以外 滞納処分をして税金に充てることができる。
(納税の猶予の例外でこれだけは差し押さえて公売可能ということに留意。)
時効【共通】
2020年4月の民法改正の所為で、恐らくH29の理論サブノートが通用しないことに気づいたので若干整理。(解説ページが見当たらなかったので自力で整理、解釈上はこれでいいと思われる。違っていたらツッコミ願います。)
あくまで用語だけですが、受験生は用語の使い方も試されるので、しっかり抑えておいたほうが良いと思われます。
納税の猶予、換価の猶予の申請書を提出した時点で租税債権が「承認」され、時効がリセット(更新)される。
すなわち、各猶予の申請の提出日の翌日から5年間で時効となる。
(申請でない換価の猶予だけは税務署長の職権で行うことから、本人が租税債権を「承認」していない。
そのため、時効の更新(旧:中断)の効果はない。)
・私が受験していたころは、旧民法147条3号の「承認」を準用し、時効が「中断」されます。
・現在は、新民法152条の「承認」の準用により、承認により時効が「更新」されます。(違っていたらツッコミお願いします。)
延滞金の免除【違い】
前回の記事の再掲。
・納税の猶予 原則全額免除、一部半額(1/2)免除
・換価の猶予 原則半額免除 税務署長が納付できないと認めればMAX全額免除
なお、コロナによる納税の猶予は「全額免除」を謳っているので、半額免除は無いと思われる。半額免除というが、実質は年1.6%(租税特別措置法に既定する特例基準割合)で、半分どころか1/4くらいになるのでかなり有利です。
分割納付に対する捉え方【違い】
前回の記事の再掲。
換価の猶予は、原則猶予期間に完納をさせる分納制度です。
納税の猶予は、それも含め納付困難と判断したら、分納もない場合(もしくは一部)があります。
条文上では、
・納税の猶予 分割納付を「させることができる」。
・換価の猶予 分割納付を「させるものとする」。
したがって納税の猶予では、分割納付を出来ないと税務署長が認めたら、完納にならない分納(納付なし)もありうるということです。
猶予期間【共通だが補足あり】
前回の記事の再掲。
猶予期間はどちらも共通。
・原則 1年
・例外 延長申請によりMAX2年
(・コロナによる特例は1年のみ)
担保の提供【共通だが補足あり】
担保もどちらも共通です。
・100万円超 担保必要。
(・コロナ関連は担保不要と銘打っているので、100万円超の滞納者も担保不要)
・100万円以下、猶予期間が3ヶ月以下又は税務署長が特別の事情を認めるときは税務署長は担保を取らないことが「できる」
※ただし、担保を取らない既定は「できる」規定なので、
100万円以下でも税務署長は担保取れないわけではありません。
したがって、余計なことはいわない事。
あくまで税務署長が猶予を認めるために必要と判断したら担保の提供義務を生じます。
まとめ
法律論点を書きましたが、やはり、実務的には前回の記事くらいで足りますね。
民法改正論点があったので、その点においても「時効関連」は出題可能性は高そうです。
時効関連は、専門書が手元になかったので参考程度に、予備校のテキストなどを参考にしてもらえると幸いです。
では、こちらを読む方は受験生も多いことを見越し、無事試験を終了できるよう祈っております。
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